子どもが小さいころはやむなく長時間労働
日経DUAL編集部 佐々木さんは「ワークライフバランス」のシンボルのように称されていますが、実生活ではどのように実践されていましたか?
佐々木常夫さん (以下、敬称略) 新卒で東レに入社し、26歳で結婚、27歳のときに長男が生まれました。さらに年子で次男、長女が誕生し、あっという間に3児の父に。実は、子ども達が小さいころは、基本的に妻が育児と家事を担っていたんです。私のほうはというと、長時間労働をしていましたね。当時はもう、みんなそれが当たり前でしたから。
戦後の高度成長期まで、男性は会社で一生懸命働き、女性は家庭を守るというのが、一つのかたちになっていました。それが幸せになる道だと、みんな思い込んでいた。まあ錯覚なんですけれど、そういう時代でした。
―― ご自身もそういうものだと思っていらしたのですか?
佐々木 私自身は違いましたね。会社の仕事はさっさと終わらせて、自分の好きなことをしたいし家族とも過ごしたいと思っていたんだけれど、会社がそうさせてくれない。上司も先輩もそうしない。色々と文句は言っても、結局は上司の言うことを聞かなきゃいけない。「しょうがないなあ」という感じで、私も長時間労働をやっていました。
夕方になって突然上司に「課内会議をやろう」と言われたり、金曜日になって「明日、出勤しろ」とか言い出すんですよね。そういうことを言われると、「私にも都合があるんです。前もって言ってください」と頼む。そのときは上司も「すまん、すまん」と言うんですが、また同じことをする。「この人は、何度言ってもだめなんだ」と思いました。自分が上司になれば自分の思うようにやれますから、それまでは仕方がないので我慢していました。