欠点を隠すのではなく、よいところを生かす

この笑み、この肌のツヤ。小林さんのようになれるなら、歳を取るのも悪くないと思えてくる
この笑み、この肌のツヤ。小林さんのようになれるなら、歳を取るのも悪くないと思えてくる

 メークを担当した藤枝さんは、山村さんについて「ちょっとミステリアスなエキゾチックさがあり、すごく知的なイメージがありました」とのこと。「そこを生かして、アイカラーや肌のつやをゴールドや赤みがかった銅、カッパーを入れるかたちで仕上げています。もともと目ぢからが強いので、そこを生かしてアイラインをしっかりと入れています」。

 一方の矢次さんは大野さんのメークについて、次のように述べました。「もともと落ち着いた清楚な上品さをおもちの大野さんは、そのなかにぴりっとした躍動的なイメージ、知的な印象もおもちです。そこで、すっきりした目元を生かして、ゴールドの輝きを出しながら目元を引き締めてまいりました。全体のツヤを生かして、健康的で夏らしいメークアップに仕上げました」。

 「それぞれの方のよさを生かしたメーク、というわけですね。欠点を隠す、という発想は一切ないんですね」という羽生編集長の言葉に、小林さんが大きく頷く。「一切ありません。今日のこのメークも、いいところをより生かすというものです。皆さん、今日見ていて、メーキャップって面白いって思っていただけましたよね?」

 時間の関係で質問を2つだけ受け付けることになった。即座に「先生!」と手が挙がる。「私の顔の印象分析をすると何でしょうか?」

 「あなたはね、クッキーフェイスよ」と小林さんが即答する。「陽気でフェミニンなかわいさがあります。さくっとしたかわいさがあります。だからメークでは、ツヤをしっかり出すことだけ心がければいいわよ」

 もうひとつの質問は、デュアル世代にはより切実なものだった。「5歳と2歳の子育て中で、自分の肌の手入れもメークも後回しになっています。これだけはしておいたほうがいい、ということがあれば教えてください」

 「大変よね、私にもそういう時期がありました」と小林さん。「でもね、細々とでも工夫して続けていけることがあるの。さっきのスキンケアとベースメークでお伝えしたように、お顔のツヤを出すことです。それからチークと口紅をさして血色をよくするの。口紅の色は、指先を見てね。たぶん化粧品売り場の口紅コーナーのなかでも一番地味な色だと思います。その色の口紅をすれば、それだけでOK。1分もかかりませんよ!」

 ツヤがあって血色がよく見えると、それだけで疲れたお母さんには見えなくなるのだという。そして、最後に、衝撃(?)の事実が明かされた。「今年で50歳プラス30歳です」と笑みを浮かべる小林照子さんに、羽生編集長が思わず確認する。「50足す30だから……80歳、ですよね?」

 頷く小林さんの瞳が、いたずらっ子のようにキラキラ輝く。

 あの肌のツヤを見れば、年を重ねることが全然怖くなくなっていく。むしろちょっとだけ、楽しみにさえなってくるのである。

 この日は駆け足だった印象分析法やスキンケア、メークのコツについては、近日中に日経DUAL編集部員による潜入リポートで詳細をお届けします。お楽しみに!

左から、山村さん、小林さん、羽生編集長、大野さん 
左から、山村さん、小林さん、羽生編集長、大野さん 

小林照子

1935年東京都生まれ。1958年、小林コーセー(現コーセー)に入社。美容指導員を経て、美容研究や商品開発、教育など幅広く担当し、1985年には同社初の女性取締役に就任。1991年にコーセー取締役・総合美容研究所所長を退任後、独立。人の外見的な魅力(美)と心の輝き(ファイン)をテーマとした研究・創造を追求する「美・ファイン研究所」を設立し、所長に就任。美容研究家としてビューティー・コンサルタントビジネスを展開しながら、現役のメークアップアーティストとしても活躍。一方、1994年に「[フロムハンド]メイクアップアカデミー」、2010年に「青山ビューティ学院高等部」を開校し、校長として後進の育成にあたる。さらに死化粧の理解を深めるエンゼルメイク研究会の副会長、メークアップを軸に社会貢献を目指すジャパン・メイクアップアーティストネットワーク(JMAN)代表を務めるなど、多岐にわたり精力的に活動。27歳で5歳年上の男性と結婚し、29歳で長女を出産。著書に『人を美しくする魔法』(マキノ出版)、『小林照子のメイクの力』(PHP研究所)、『死に逝くひとへの化粧』(太郎次郎社エディタス)など。

(構成/Integra Software Services、撮影/稲垣純也)