急速に進む少子化やリーマンショック以後の経済不安で以前のような勢いはないものの、首都圏では今もなお一定の需要がある中学受験。「うちは夫婦とも公立だったから中学受験なんて関係ないわ」と思っていても、地域によってはクラスの約8割の子が中学受験をするという学校もあり「周りの子がみんな中学受験をするのなら、うちもさせようか……」と考える家庭も多いようです。

 ところが両親が共に地方出身者だと、たとえ首都圏での暮らしが長かったとしてもどの学校が良いのかということまではなかなか分からないもの。そもそも首都圏にはどのくらいの数の学校があり、どの学校が人気校であるかさえ分からないという人も多いでしょう。地方出身者のパパとママにとって首都圏の中学受験は“カオス”に近い状態かもしれません。

 そんな中でも「御三家」という言葉は何となく耳にしたことがあるのではないでしょうか? 首都圏で生まれ育った人からすれば「そんなのみんな知っているよ!」という印象があるかもしれませんが、実は意外と「御三家がどの学校を指すのか」を知らないという方も多いのです。

 今回はそんな方のために中学受験で最も難関校と言われている「男子御三家」について紹介していきます。教育専門家から見た三校の魅力、近年の入試傾向についても触れていきますので「もう知っているよ」という方もぜひ参考にしてみてください。

カラーは違えど、三校に共通するのは「高い学力」と「生徒の自主性」

 中学受験で耳にする男子御三家とは「開成」「麻布」「武蔵」の三校を指します。いつごろからこういう呼び方をするようになったのかは分かりませんが、大手受験塾が呼び始めたという説があります。

 さてこの3つの学校、一体何が魅力なのでしょうか? まずは各校の簡単な紹介をしましょう。

【開成中学校】
1871(明治4)年創立の男子校。「知性」「自由」「質実剛健」を重んじた教育内容で、勉強だけでなく部活動や学校行事も盛ん。特に運動会に対する気合いの入れ方は相当なもので、全体的に体育会系の雰囲気の学校。授業は、国・数・英・社・理の主要教科は独自のカリキュラムを実施し、教師の手づくりの教材やプリントを多用。

開成の校章「ペン剣」
開成の校章「ペン剣」

男子御三家の中で唯一高校からの募集もあり、高校の大学合格実績は現役東大合格者120名(2015年度)と近年連続全国1位の合格者数を誇る。校章の「ペン剣」は「ペンは剣よりも強し」を表したもので、知性と力を重んじる開成の校風の象徴。東京都荒川区西日暮里所在。中学校300名、高校100名募集。

【麻布中学校】
1895(明治28)年創立の男子校。「仲間を大切にしながら豊かな人間性をはぐくむ」ことを教育理念に掲げている自由闊達な校風の学校で、その自由さは文化祭や体育祭を訪れるとよく分かる。私服で茶髪率も高く、男子御三家の中では最も伸び伸びとした学校。一方で学力も高く、2015年度の現役東大合格者は50名と合格者数では開成より下回るものの、卒業生の数で考えると合格率では上回る。入試から卒業まで一貫して文章を“書かせる”教育を実践していて、定期試験も記述問題が中心、各教科でもレポート課題が出される。また中1に「世界」という世界地理と世界史を総合した教科があるなど、オリジナルの授業を展開。東京都港区元麻布所在。中学校300名、高校募集はなし。

【武蔵中学校】
1922(大正11)年創立の男子校。建学の精神として『武蔵三理想』つまり「東西文化融合のわが民族理想を遂行し得べき人物」「世界に雄飛するにたえる人物」「自ら調べ自ら考える力ある人物」を掲げている。自由・自主性を重んじる校風で校則が無く、生徒自身の責任と判断に委ねている。授業は“本物に触れる”ことを重視し、自ら調べて考え、発表する力を育成。ただし学問の本質を学ぶ授業が多いため、近年は進学実績がやや低迷しており、2015年度の現役東大合格者数は20名と男子御三家の中では最も少なく、男子御三家に該当しない駒場東邦の方が60名と大きく上回るという結果に。東京都練馬区豊玉上所在。中学校160名、高校募集なし。

 こうしてみると男子御三家と呼ばれる三校にはある共通点があることが分かります。それは、現役東大合格者の数を見ても分かるように学力のレベルが非常に高いこと。一方で、大学受験に捉われない独自のカリキュラムを展開していて、その内容がとてもユニークであること。また勉強だけでなく、部活や学校行事も盛んなこと。その運営を生徒に任せ、生徒の自主性を大切にしていること。こうした校風に魅力を感じ、多くの受験生とその親達にとって憧れの存在になっているのです。

 では、その人気三校の入試はどんな問題が出されるのでしょうか?