仕事は大変だが「挽回可能」。一方、子育ては「期間限定」で“今”が勝負

 「仕事って、常にずっと大変ですよね」と川島さんは言います。確かにおっしゃる通り、今だから大変ということは無い。でも、余程のことではない限り、仕事は挽回できる。一方、子育ては「期限限定」。今の子どもは、今しかいない。

 わが家の息子達は幼いころには私が帰宅すると「パパぁ!」と飛び上がって喜んでくれましたが、最近ではテレビやスマホのトランスにかかっていて、私が帰宅しても顔も上げてくれないほど。こちらの仕事の時間が空いて、「どこか一緒に行こうか」と聞いても「イイ、遠慮しとく」と。一方、妻は子ども達の生活にずっと関わってきたし、これからも関わっていく。

 川島さんの話って、本当に心に染みます。自分は子ども達と二度と無い貴重な時間を「仕事のため」に逃してしまったのではないかと反省している最中でしたから。

 私は今年3月の自分の誕生日を機に心を若干入れ替えて、「家で食事する」という予定を少なくとも週一回、できれば週二回のペースで前もって日程に書き込むようにしました。そうしないと「空いてますか?」という会合の問い合わせがあると「空いています」と返してしまい、ほとんど平日の夜は会食になってしまうという状態が長年続いていたので。

 家族全員で食事の円卓を囲めるのも、今のうちです。子ども達は兄弟同士で言い争いをしながらも、親から注意されながらも、色んな話をしてくれます。自分が見えていなかったことが見えてくる楽しい時間です。

子育てにそこまで関心が無かった川島さんを変えたのは、妻のフルタイム勤務

 エネルギッシュに子育てのことを説いてくれる川島さんですが、“本業”はサラリーマン。大手商社子会社の社長です。若いころにはPTAなどの地域活動に「まったく関心がなかった」という典型的な日本男性でした。ただ、奥様がフルタイムで仕事に持つことに心理的な抵抗が無く、お子様が産まれてから、ご自身の考えに自然に変化が起き始めたようです。

 夫婦共働きで、それぞれのお仕事のコミットメントがある中、子どもが急に熱を出すこともあり、子育てでは三日先のことが読めません。夫婦のあうんの呼吸で、もし何かがあったら子どもを優先して川島さんご自身が引こう。そう思いながら、結局、奥様に負担がかかる場合が多いことが気になっていたそうです。

育児に主体的に関わることで見えてきた、子育て環境の課題

 一方、お子様と遊んでいる近所の公園などで、仕事以外のお付き合いも広がってきました。世間に目を向けると、多くの社会問題の根源に子育て環境があることも見えてきました。

 同じ小学校に子どもを通わせていたママ仲間のご紹介で、NPO法人ファザーリング・ジャパンのファウンダー・代表理事の安藤哲也さんと出会い、意気投合します。そして、“イクメン”という言葉を普及させ、「子育てが楽しく笑っている父親を増やす」同団体のミッションを実現するために理事としてご活躍されるようになりました。

 「どのようにしたら、イクメンになれるんですか」という問い合わせが少なくないようです。

 でも、「そんなの理屈ではない」。インタビュー中、笑顔が絶えない川島さんの眼差しが真剣になる瞬間でした。「別にハウツー・マニュアルがあるわけではなく、失敗することも恐れてはならない。不可欠なのは親としての『基軸』と『一貫性』である」というお考えは川島さんの極意です。

 準備無く、いきなりお母さんやお父さんになる親御さんが普通です。私だってそうでした。親になるということは試行錯誤の繰り返し。子どもの年齢が上がれば上がるほど「楽」になるどころか、親にとっては新しいチャレンジが待っています。

 親には自分の成功体験、そして、エゴもあります。「子どものため」と言いながら、実は子どもを通じて「自分のため」という自己実現を求めてしまうきらいがある。子どもが学校の勉強やスポーツの活動で“失敗”した場合、本来であれば、おおらかな笑顔で失敗に挫けない子どもの向上心を支える必要があるのに、しかめっ面で「恥ずかしいと思わないか?」「お前ならもっとできるはずだ」と、逆に失敗する恐れを子どもの心に刻み込んでいく場合のほうが多いかもしれません。

 親になるということは、子どもの成長と共に、自分が人間として成長できるかを天から試されていることだと思います。そして、そのマニュアルはどこにもないだけに、川島さんがおっしゃる「基軸」と「一貫性」を内心に築くことが大事です。