スタートは自宅のリビング。運営チームを組織し、規模拡大へ

 場所は岡野さんの自宅リビングルーム。初回の参加者はママ6人。赤ちゃんをあやしたり授乳したり、持ち寄ったお菓子をつまんだりしながら、本格的なケース・ディスカッションを行いました。開講時間はランチタイムを含む11時から15時。回を重ねるごとに口コミで参加者が増え、約半年間・計11回の勉強会に育休中の男性を含む、延べ107人が参加しました。

 当初は国保さんがファシリテーションを行っていましたが、途中からは参加メンバーが国保さんからトレーニングを受け、ファシリテーターを務めるように。

 こうした「育休プチMBA勉強会」の様子が、2014年11月にメディアで紹介されたのを機に、参加希望者はさらに増加。そこで、それまでに勉強会に参加した約30人の育休者を集めて「勉強会運営チーム」を組織しました。

 2015年1月以降は、自宅リビングには入りきらないため外部の会場で開催するようになり、会場費や教材費として参加費を取る形で運営するようになりました。運営は育休中のメンバーを中心にボランティアで行い、開催案内はFacebook上の「育休プチmba勉強会」ページで告知しています。

“制約人材”に必要な3つの要素を軸にプログラムをデザイン

 勉強会では、実際にどんなことを学ぶのでしょうか。

 プログラムは、国保さんが既存のビジネススクールのカリキュラムを取り入れつつ、独自にデザインしたものです。一般的なMBAプログラムと異なるのは、子どもを持つことで労働時間に制約を抱えることとなった“制約人材”が必要とする要素を軸に据えている点だと言います。

 「ビジネススクールの本質は経営知識の習得以上に経営者目線での思考トレーニングであると考えていますが、この勉強会では、仕事が好きで組織に対する貢献意欲もあるけれど、子どものお迎えに行くために残業ができないという制約を背負った“制約人材”が、当事者目線ではなく経営者目線で、どのように組織の目標達成に貢献できるかを考えるトレーニングを行っています」(国保さん)

 そして、“制約人材”に必要な要素として、下記の3つを掲げています。

【1】マネジャー思考
 他者を使って物事を成し遂げる(中原, 2014)ために必要な思考。時間に制約のある制約人材が組織に貢献するためには、自分が効率的に働くのはもちろんのこと、他者の力を借りながら成果を出すための思考が求められる(参照:参考文献:中原2014『駆け出しマネジャーの成長論』)。

【2】リーダーシップの構造づくり軸
 「リーダーシップ」は、組織メンバーの役割やタスクを定義する行動(構造づくり軸)と信頼関係や感情へ気配りする行動(配慮軸)を統合した力として定義される。長時間勤務ができない制約人材が滞りなく業務を担うためには、構造づくり軸の要素を鍛える必要がある。

【3】両立上の「壁」を乗り越える力
 復職後に直面する様々な苦境(壁)をプレビューし、あらかじめ冷静に対策を検討しておくことで、いざというときにその力を発揮できることを目指す。