統計データを使って、子育てや教育にまつわる「DUALな疑問」に答える本連載。今回は、「子どもの学力を決める社会的条件」について取り上げます。東京の小学生の学力は、区によってかなり開きがあります。実は「親の平均年収」「高学歴人口率」「教育扶助受給率」がわかれば、その区の子どもの平均学力がかなり正確に推し量れるのです。

 こんにちは。武蔵野大学講師の舞田敏彦です。前回記事「お金持ちエリアに住むと、子どもの学力が上がる?」は、首都圏の地域別の平均世帯年収を計算しました。1都3県の214区市町村の平均世帯年収を出すと、最高の793万円から最低の316万円まで幅広く分布しており、年収が高い地域ほど子どもの学力が高い、という傾向がみられます。これは、最近話題になっている教育格差の問題に通じることです。教育格差とは、家庭環境や地域環境などの外的条件に由来する、子どもの育ちや能力の格差をいいます。

 前回注目した学力の地域格差は、そのなかでも中心の位置を占めています。しかるに子どもの学力は、各地域の世帯年収のような条件に100%規定されているのではありません。平均年収が低くとも、高い結果を出している地域もあります。重要なのは、そういうケースの情報を収集・体系化し、それを広めていくことです。この積み重ねが、実践による格差是正へとつながると思われます。そこで今回は、東京都内23区を例にして、その作業の一端をご覧に入れましょう。教育関係者の方々の参考になれば幸いです。

子どもの学力と関連がある指標は?

 各区の子どもの学力は、前回みた平均世帯年収と強く相関していますが、他の指標とも相関しているとみられます。例えば、高学歴人口率です。高学歴の親は概して教育熱心であり、子どもの勉強をみる頻度も高いでしょう。この率が高い地域ほど、子どもの学力は高くなると思われます。それと、教育扶助受給率なんてのはどうでしょう。義務教育学校に子どもを通わせるのもままならない家庭になされる援助ですが、こういう不利な条件の子どもがどれほどいるかも、勘案すべき条件の一つです。

 私は、各区の①平均世帯年収、②高学歴人口率、③教育扶助受給率を計算しました。①は前回記事で明らかにした数値を使います。②は、15歳以上の学校卒業人口のうち、大学・大学院卒業者が何%かです(資料は、2010年の総務省「国勢調査」)。③は、2013年度の教育扶助受給世帯数を、同年5月時点の公立小・中学校児童・生徒数で割って出しました。義務教育学校の児童・生徒千人あたり、扶助受給世帯がどれほどかです。分子は「東京都福祉・衛生統計年報」(2013年度)、分母は「東京都公立学校統計調査」(2013年度)から得ています。

算数の正答率は10%以上の開きがある

 これら3つの指標が子どもの学力とどう関連しているかをみるのですが、学力の指標として使うのは、公立小学校5年生の算数の平均正答率です。正答率の地域分散の大きい、この教科に着目することとします。資料は、都教委の「児童・生徒の学力向上を図るための調査」(2013年度)です。

 表1は、東京都内23区の値の一覧表です。黄色マークは最高値、青色マークは最低値であり、上位3位の数値は赤色にしています。

 同じ東京内にあっても、学力や社会経済指標は区によってかなり違っていますね。算数の正答率は58.4〜72.1%、平均世帯年収は431.7〜793.0万円、高学歴人口率は13.8〜36.7%、教育扶助受給率は3.7〜30.3‰という開きがあります。

 左端の算数の正答率は、3つの社会経済指標のどれとも強く相関しています。平均世帯年収とは+0.7569、高学歴人口率とは+0.9052、教育扶助受給率とは-0.7939という相関です。年収や高学歴率が高い区ほど正答率が高く、扶助受給率が高い区ほどそれは低い。誰もが思っていることが数値で可視化されています。相関係数の絶対値をみると、高学歴人口率が最も効いているようです。家庭の経済資本以上に、保護者の教育関心や蔵書量のような文化資本が重要である、ということでしょう。