腕まくりして、知識や経験を総動員せよ

 仕事で疲れていると、「ふーん。どこかしらね」と適当に流したり、「いきなり何のこと? 自分で調べなさいよ」と回答を放棄したりすることもあるかもしれないが、「ここは腕をまくって張り切るべきところ!」と生重さん。

 「知識や経験を総動員して回答する姿勢を見せてください。すぐに答えられなかったとしても、『お母さんの同僚で、工場の管理をやっていた人がいるから聞いてきてあげる! 2、3日待ってくれる?』と真剣に調べて子どもに返してあげてください。親が仕事を通じて獲得している人脈の豊かさ、知識や見識の広さと深さを垣間見ると、子どもは親を“頼りがいのある存在”と認識します」

 疑問を解決してくれる人。それも、広いネットワークを駆使してベストな回答を見つけてくれる人。親がそんな存在であると認識した子どもは、何か困ったことがあったときの相談相手として親を信頼するようになるのだ。

 この関係性づくりが、思春期の問題を未然に解決することにもつながっていく。同時に、“頼りがいのある存在”のバックボーンとなっている社会に対しての憧れや期待も膨らみ、将来のキャリア形成にも影響するだろう。

親が成長しようという意欲を見せるのは最高の教育

 疑問解決人としての親自身も、「面倒臭い」と思わずに楽しむといい。「○○ちゃんのおかげでお母さんも工場の最新事情について詳しくなれたわ」と、自分自身の成長を喜ぶ言葉を口にしよう。

 「『君がいなければ、親の私もここまで成長できなかった』という感謝の言葉は、子どもの自己肯定感を育てます。また、親がいくつになっても人として成長しようという意欲を見せることは、子どもにとって最高の教育であり、信頼を育てます」と生重さん。

親の働く姿、もっと、もっと見せてもいい

 思春期の親子コミュニケーションについて調査・研究をする昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員の臼田明子さんは、「親が働く姿をもっと子どもに見せるといい」と提言する。

 自身が子育てを経験したオーストラリアでは、職場に子どもを連れてくることは珍しくなく、家族を職場に招くファミリーデーなどのイベントも盛んだったという。

 「イベントを通して社員の家族同士がお互いに知り合いになる。このメリットはとても大きいですね。実際に小さい子がいつ社員が、『ああ、こんな子がいるんだ』と皆に見てもらえれば、子どもが急病になって保育園から呼び出しを受けても、周りの職員の理解が得やすい。また、妻も子供も、父親がどんな仲間と働いているのかを見ることができます。(もちろん、妻の職場についても)。ハードに働くビジネスパーソンが、保育所に子どもを迎えに行った後に子連れで職場に戻って仕事を再開することもよく見られた」と振り返る。

 「日本では小学校高学年以降に職場体験を導入するケースはありますが、私はもっと小さいうち、乳幼児の頃から両親の職場を見学するような体験があってもいいと思います。子どもは豊かな感性で“親が働く姿”を感じ取ります。『自分が保育園で過ごしている間、お父さんやお母さんはこんなことをしているんだ』と子どもなりに理解するのではないでしょうか。その“納得”が親子間のコミュニケーションにとって大事だと思います」(臼田さん)

 家庭の中でも、仕事の話は隠さずにどんどんしたほうがいいという。親が日ごろどんな仲間とどんな仕事に向き合って、どんな気持ちでいるのかということに、実は子どもはとても興味を持っている。