つい最近までフィンランドの首都、ヘルシンキに住み、フィンランドでの出産経験もあるワーキングマザーの安藤由紀子さん。子育てしやすい現地の様子を詳細にリポートした前回までの記事に続き、今回と次回は2本立てで、先進的なフィンランドの保育施設事情をお届けします。

【前回までの記事】
1. フィンランド人の夏休みは森で1カ月コテージ滞在
2. 夫婦の特別な日には気軽にベビーシッターを利用
3. ベビーカーで電車に乗る人は邪魔どころか利用が無料(有料会員限定記事)
4. 男性トイレにもオムツ替えシートが完備する国(有料会員限定記事)

働いてなくても預けられるフィンランドの保育施設

 フィンランドの保育施設には日本のように保育園、幼稚園といった分類はありません。保育を必要とする子ども達の多くは“Päiväkoti (パイヴァコティ)”と呼ばれる公立の保育施設に通います。

 日本でも今、保育施設の新たな選択肢として幼稚園、保育園といった区別をしない園、「認定こども園」が誕生していますが、そもそも保育園、幼稚園といった分類があること自体、他国から見ると不思議なことかもしれません。

 「日本に帰国したら、パイヴァコティはどうするの?」とフィンランド人の同僚に尋ねられ、「両親共に働いている子どもは長時間預けられる保育園に、どちらかの親が家にいる場合は短時間保育の幼稚園に入れるのよ。私は保育園に入れたいのだけど、待機児童がたくさんいて入れるかどうか分からない」と説明しました。ですが、相手にはピンときていないようでした。

 そもそもフィンランドでは幼稚園のような制度を設けるほど、共働きでない家庭の割合は多くありません。共働き率が非常に高いのです。そして共働きでも残業はほとんど無いため、子どもを遅くまで預けることはあまりありません。

 送り迎えは夫婦交代で、朝早く仕事に行ったほうが8時間勤務し、16時くらいには子どもを迎えに行きます。朝、子どもを園に連れていった親は、職場に少し遅く着きますが、夕方はその分だけ少し遅く帰ります。とはいえ忙しい時期でなければ、基本的に8時間勤務なので夕飯の時間には帰宅します。平日でも家族そろって夕飯を食べることが普通なのです。これが、家族との時間を非常に大切にするフィンランド人のライフスタイルです。

建築家による設計のデザイン性の高い保育施設も
建築家による設計のデザイン性の高い保育施設も

子どもを家でみる場合、毎月在宅保育手当が支給される

 パイヴァコティは0歳児から入れますが、3年間は出産前にいた職場に戻る権利が法律で保障されているため、3歳まで家庭で子どもを世話することも少なくはありません。

 私が実際子育てをするようになって興味を持った制度に、子どもを3歳まで保育施設に預けない場合、補助金が支払われるというものがありました。育児を家ですることに対する補助という考え方です。すべての子どもに対して育児補助(1人目だと毎月95.75ユーロ=約1万3000円、6月現在)もありますが、それとは別に家庭での在宅保育手当として1人当たり月342.53ユーロ=約4万7000円(同)が支払われるのです。しかも、保護者は両親に限定されず、祖父母が自宅で子どもを世話をする場合にも適用されます。

 この制度が生まれた背景は把握してないのですが、周囲の人と話していると、家で子どもをみることに対する賃金のように捉えられている風潮もありました。「家にいる家庭の主婦、もしくは主夫が子どもを世話するのは当たり前」という考えではなく、「それは経済的評価に値する」という考え方が根付いているようでした。

ある保育施設内のホール。子ども達が体を動かせる遊具が充実
ある保育施設内のホール。子ども達が体を動かせる遊具が充実