法律上は任意参加でありながら、全員参加が暗黙の了解になっていることも多いPTA。「子どもが小学校に入学した日からPTA会員になった僕は、なんか変だぞと感じたり、いやいやなかなかPTAっていいとこあるじゃんなどと思いつつ、2007年からはいわゆる本部役員まで経験してしまった。その航海の中で、感じ、調べ、議論してきたことをまとめて」1冊に著した『PTA再活用論―悩ましき現実を超えて』(中公新書ラクレ)の著者である作家の川端裕人さんが、各地のPTA活動や組織活動をリポートします。前回の「横浜市PTA 役員に『PTAの任意加入』を研修」に引き続き、横浜市PTA連絡協議会・森川智之会長に、PTAを改革する際の注意点について伺いました。

保護者によるPTA会費返還訴訟から、私達が学ぶべきこと

横浜市PTA連絡協議会・森川智之会長
横浜市PTA連絡協議会・森川智之会長

川端 横浜市PTA連絡協議会は、新任役員研修において「PTAは任意加入である」という認識を明確に示しました。ここにはどんな狙いがあったのでしょう?

森川さん(以下、敬称略) 「PTAが任意加入であることを周知しなければ、いずれPTA会長や役員がネガティブな事態に巻き込まれることになる」という危機感です。

 例えば、熊本でPTA加入を望まなかった保護者によるPTA会費返還訴訟が既に起きています。また訴訟までいかなくても、「PTAを辞めたい」という保護者の対応を間違ったために、保護者から突然、PTA会長宛てに内容証明が送られたということも起きています。これはPTA会長や役員にとっても、保護者にとってもハッピーなことではありません。

 PTA役員側がまず正しい知識を持たなければならない。今の話のように保護者から辞めたいと通知が来たら、拒絶することはできません。そういった知識を押さえたうえで、PTAをどう運営するかということを考える必要があると考えました。

―― PTAを本質的な部分でちゃんとしたいと思ったときは、大きく2つのことを同時にしなければならないことが多いと思っています。1つ目は「まっとうな団体運営」にするための努力。入退会の問題など、本当に変な形のまま続いているので。

 それと同時に「何のためにやっているのか分からない形骸化した活動を見直して、今の会員がやるべきと思う活動をできるようにする」ということ。これ、お互いに密接に関わっているので、片方だけでは済まないことが多いです。それが役員の負担になる。

森川 そうですね。横浜市P連も、組織改革を含めて同時進行で進めています。PTAのような組織の改革の難しいところは、改革のスピードが遅過ぎてはいけないし、早過ぎるのにも問題があります。組織を変革しようとしたとき、突出して動いてしまったら周囲がついてこられなくなってしまいますから。

 周囲をうまく巻き込みながら進めなければならないわけで、だからこそふさわしい会長を選ばなければならない。メンバーをうまく引っ張っていけるリーダーが必要なんです。それと同時に、一緒に考え、動いてくれる会員を少しずつ増やしていかなければならない。横浜市P連の場合は500校が関わっているわけですから、全体を上手に動かしていかないとならないので、大変です。

―― でしょうね。大いに納得です。

ライフスタイルが多様化した今、PTAにおける「公平」は成り立たない

森川 川端さんのお話で、PTAの一番のキーワードを思い出しました。それは「不公平」。他人と自分の負荷を比較する保護者間の不公平、「昔は苦労したのに」といった過去と現在の不公平。色々ありますが、その言葉を乗り越えないと前に進みません。

 不公平、と軽く言葉にしますが、では、「一人親家庭と共働き家庭を公平に扱うにはどうしたらいいのか?」などには、そもそも答えがありません。「公平とは何なのか?」が、今はそもそも読みにくい時代です。

 これからのPTAを考えるとき、「公平」でなく「公正」(フェアネス)を考えなければならないんです。「公正」にも色々ありますが、「強制されていないこと」が「公正」を実現するための不可欠な要素の一つです。

 では「平等」「不平等」といった分け方で、長年にわたって、なぜあまり問題が起きなかったのかというと、戦後の日本が長年、均一な社会だったからなのでしょう。私が自分の子ども時代を振り返ると、PTAは地域の名士が会長をし、専業主婦が役員をやっていました。組織として成り立ちやすかったのだと思います。でも今はもうそんな世の中ではありません。ライフスタイルが多様化した今では、公平という言葉自体が成り立ちません

―― 個別の学校のPTAの話ですが、役員選考の方法などで、皆さん「公平な選出」を求めてしまうのですよね。どうやったら公平になるか、毎年毎年長い時間をかけて考えて、結局、ポイント制だとか、くじ引きだとか、あまり「公正」とは思えない結論に至ってしまう……。