練習は「気の向くまま」に。時間や分量は定めない

―― 自宅での練習にはどれほどの時間をかけてこられたのでしょうか?

雅子さん これは、ピアノを始めた4歳ごろからそうなのですが、「一日何時間練習する」とか、「何時から何時までは練習の時間」とか、そういう決まりを設けたことはないんです。決め事は「次のレッスンまでにやると決めた課題を完成させる」ということだけ。だから、難易度によって時間がかかったり、短時間で仕上がったりしていました。練習する時間の長さもタイミングも、華音の気の向くままにさせていましたね。

―― 幼かった華音さんは、練習を嫌がることはなかったのですか?

雅子さん 当然、気分が乗らない日もありました。うまくできなかったりすると練習を中断して、ふっと庭に出て草花を摘んで遊んでいたり。そのときは叱りましたね。「まだ課題ができていないでしょう。自分で責任を持ってやらなければダメよ」と。

華音さん 怖かった記憶があります(笑)。

雅子さん 後で「ママ、ごめんなさい」って、お花のブーケを持ってきたりしてましたね(笑)。

華音さんと、母親の雅子さん
華音さんと、母親の雅子さん

華音さん 決められた時間の練習をこなすのではなく、自分のコンディションに応じて練習したりしなかったりするのは、今も同じです。今の練習は一日4時間ほどですね。ピアニストの中には一日10時間くらい練習する方も少なくないと聞くので短いほうだと思います。

―― 変に縛られることがなかったからこそ、思いのままに発想を広げることができ、豊かな表現力が伸びていったのかもしれませんね。では、最後に、今習い事をしている子ども達にメッセージをお願いします。

華音さん 「心から楽しんで」ということです。演奏家を目指すのであればなおさらです。自分が楽しいと感じられなければ、必要な努力もできません。自分が楽しんでいなければお客様に楽しんでもらうこともできませんから。

―― では、子どもを持つ親御さんたちにメッセージをお願いします。

雅子さん 私が華音にバレエをさせたかったように、親が子どもにさせたい習い事ってあると思います。でも、それ以外に「子ども本人がやりたいと思うもの」がきっとあると思うんです。子ども自身が楽しめるもの、続けられるものを一緒に探してあげてください。子どもに詰め込もうとするのではなく、子どもの中から引き出してあげてはいかがでしょうか?

松田華音(かのん)さん

1996年、香川県高松市生まれ。4歳で細田淑子に師事、ピアノを始める。2002年秋、6歳でモスクワに渡りエレーナ・ペトローヴナ・イワノーワに師事、翌2003年、モスクワ市立グネーシン記念中等(高等)音楽専門学校ピアノ科に第一位で入学。2004年、エドワード・グリーグ国際ピアノ・コンクール(モスクワ)、グランプリ受賞。2006年、TVロシア文化チャンネル主催、くるみ割り人形国際音楽コンクール、ピアノ部門第一位受賞。2009年、AADGT 国際Young Musician Competition(ニューヨーク)第一位受賞。2010年『Классика-2010』(才能ある青少年の国際コンクール&フェスティバル)グランプリ受賞(カザフスタン)。2013年2月、モスクワ市立グネーシン記念中等(高等)音楽専門学校で最優秀生徒賞を受賞。ロシア最高峰の同名門音楽学校で外国人が最優秀生徒に選ばれたのは初めて。2014年6月、モスクワ市立グネーシン記念中等(高等)音楽専門学校ピアノ科を首席で卒業。9月、モスクワ音楽院に日本人初となるロシア政府特別奨学生として入学。11月、ドイツ・グラモフォンよりCDデビュー。オーケストラとの初共演は8歳。これまでにミハイル・プレトニョフ、マルク・ゴレンシュタイン、高関健などの指揮者、ロシア・ナショナル管弦楽団、ロシア国立交響楽団、キエフ国立フィルハーモニー交響楽団、札幌交響楽団などと共演。2014年11月発売CD『松田華音デビュー・リサイタル』(ユニバーサルミュージック)。

(ライター/青木典子、撮影/平山 諭)