本や映画の登場人物と重ねて曲のイメージを広げる

―― グネーシン音楽学校では、どんな指導を受けたのでしょう?

華音さん 初めて専門的な知識・技術を本格的に学びました。でも、それ以上に育てていただいたのが、「演奏家とは」という心構えや姿勢です。「演奏家は“ただ頑張って弾いています”というのではダメ。お客様に心地よさや、温かさ、楽しさなどを感じてもらわなければならない」と。「そのためには、音楽を通じて自分が何を伝えたいのかを持っていなければならない」と、音楽に限らず、“人間とは何なのか”といった哲学的なお話までしてくださいました。

―― そんな先生のメッセージに、華音さんはどう応えたのでしょう?

華音さん 先生から言われたことをそのまま聞き入れるのでなく、自分なりに考え、理解し、自分のものにすることを心がけました。次に先生に演奏を聴いていただくまでに、自分なりの考えでその曲を創るようにしたんです。曲への理解や思いを深めるために、色々な本を読み、映画を見たりもしました。

 先生はよく、曲のイメージを本や映画に例えてヒントをくださいました。例えば、『エフゲニー・オネーギン』(プーシキンの韻文小説)という小説に登場する主人公のタチアナは、愛の告白の手紙を渡したところ、相手から冷たくあしらわれてしまいます。「あの場面のタチアナはどんな気持ちだったと思う?」と質問されたりするんです。これはあくまで一例であって、曲にどんなイメージを重ねるかは、私の自由なのですが。ピアノの前に座っていないときでも、この曲にはこの物語に重なる部分があるのでは……などとイメージを広げていました。

―― 演奏中は、そうした気持ちを曲に乗せているのですね。華音さんの演奏中の姿を見ると、全身で表現しているように感じます。

華音さん 先生からは「体や顔をムダに動かさないように」と注意されるんですが、気持ちが高まると自然に体が動いてしまうんです(笑)。表情もそうです。ロシアのコンサートで演奏したとき、子ども達から「演奏中の表情はどうやってつくっているんですか」なんて聞かれたんですけど、意図的に演じているわけでなくて、自然に気持ちが表情に出てしまいますね。

 曲のイメージに加えて、プロになった今では“感謝”の思いも強くなっています。私のピアノを聴きに来てくださった皆さんに対する感謝の気持ちを込めて弾いています。

「もしピアニストじゃなかったら、何になりたかったですか?」という質問を華音さんに投げかけたところ、「やっぱりピアニスト」と即答されました。しかも、ジャズピアノなど他のジャンルに挑戦するよりも、このまま「クラシックピアノを極めていきたい」とのこと。心からクラシックピアノの演奏が好きという気持ちが伝わってきました。