私が、親として礼夢に対して「こういう人になってほしい」という思いが3つありました。それは、「ルールを守れる人になること」「自立した人になること」。そして、「いろんなコミュニケ—ションが取れる人になること」です。

 ルールを守るにはまずは家から……と、親子でいくつかのルールを決めました。「家に帰ったら必ず手洗いうがいをする」「ごはんが終わったら、お風呂に入る」みたいに。決めたルールは私も守ります。ルールを守らないと、私が礼夢に怒られますから(笑)。子どもは思った以上にちゃんと見てるんだなーと思います。「子どもに求める前に、まずは親から!」と、きちんとルールは守るようにしています。

 自立するためには、まずは「自分のことは自分で決められる子になってほしい」と思いました。幼稚園のときは、毎朝、私が洋服のコーディネートを何パターンか出し、自分で選ばせるようにしていました。買い物も同じ。礼夢のものを買うときは、まずは彼に選ばせる。そして、最終的にどれにするか一緒に決めています。

伝えるための色々なツールを渡して、道具を活用することを教えた

 そして、コミュニケーション。礼夢には「聞こえないことは恥ずかしいことじゃない」ことを知ってほしいし、聞こえなくても、伝える手段はたくさんあることを知ってほしかったから、早くからいろんなコミュニケーションツールを持たせていました。

 最初は紙に書いたメモ。彼が大好きな「ソフトクリーム」と書いたメモとお金を持って、近所のお店にお買い物に行かせました。

 小学3年生になると、電子メモパッドの「ブギーボード」を持たせました。何度も消したり書いたりできるので、これを持たせておけば、外出先で「トイレどこですか」と書いて店員さんに見せることもできます。文字を書く練習にもなって、これはよかったですね。

 そして今は、もっぱらiPhone! 礼夢には、4年生から持たせています。スマホを持たせる年齢としては早いかもしれませんが、それよりも、私はiPhoneの便利な機能を覚えて、外でのコミュニケーションに活用してほしかったんですね。中でも、FaceTime(ビデオ電話ソフト)は本当に便利です。例えば、礼夢はどこかで迷子になったとき、私に電話をかけてもどこにいるか説明ができませんが、FaceTimeなら顔を見ながら手話で話せるので、今、どこにいるかが分かりますし!

 最近、彼はiPhoneのメモに「トイレどこですか」「アイスください。バニラ」と、よく使う定型文をメモしておいて、活用しているみたいです。

 ちなみに、アプリのダウンロードは無料のものだけという約束です。パスワードは私が管理しているので、礼夢は勝手にダウンロードできません。もし300円のアプリがどうしても欲しいときは、貯金箱から300円を持って来てママに渡す、というルールです。

 これからは手話だけでなく、読唇術や口話法もまた学んで、彼のコミュニケーションの幅を広げてあげたいなと思っています。

 「大変ですね」とよく言われますが、私の子育ては、障がいの無い子の子育てと変わらないと思います。子育ては不安に思うことが多いけれど、それは障がいのある無しにかかわらずあるもの。

 焦らず、比べず、諦めず。親子で「楽しい」と「うれしい」をたくさん共有していけたらなと思っています。

(ライター/松田亜子、撮影/稲垣純也)