きれいごとだけじゃないから救われる

―― 本には闘病のこと、子育てのこと、家族をみとることについて、かなりネガティブな感情まで、正直に書いています。きれいごとだけではないがゆえに、むしろ励まされる人もいるように思います。

清水 そうだといいなと思っています。

 あの時期、ぺ~がいてくれたから救われたし、いなかったらと思うとぞっとするんです。でも、闘病する妻を支えながらの育児は、ものすごく大変でした。ジャイアントスイングで放りたいと思ったことも何度もあります(笑)。そういうことは書かずに、「子どもはみんな天使」みたいなきれいごとだけ書くのはどうかと思うんです。

 闘病生活も、美しい夫婦愛だけで乗り切ったわけではないです。お金のことで神経質にもなりましたし。でも、きれいごとだけじゃないほうが、救われることもありますよね。迷ったり、落ち込んだり、情けなくて当たり前。それでもなんとか前を向いて進んできた、というのが人生の真実じゃないかと思うんです。

―― 夫婦で経験したことから、ぺ~ちゃんにぜひ伝えたいことは?

清水 ヨメも書いていた通り「友達が多いことがうれしいことである」というのは僕も特に今回感じたこと。人の中で生きることの面白さを感じたんです。

 今はつい一人の世界に引き込もりがちな時代ですよね。人と生きるのって面倒なことが多い(笑)。結婚も出産もリスクが多いから、未婚の人も増えてます。でも、一人で生きるのと誰かと生きるのとどちらが面白いかといったら、僕は人と生きるほうが間違いなく面白いと思うんです。

 誰かと生きることで、予想を超えた体験や、想像もつかなかった感情を得ることができる。それに僕は、お笑い番組一つとっても、誰かとああだこうだ言いながら見るのが好きなんです(笑)。一人でお笑い番組を見ても、どうしても面白いと思えなくて。幸せは誰かと分かち合った瞬間に初めて幸せになる――今はそう信じているんです。

 そういう意味では面倒なこともたくさんあるけれど、自分は他人と共生していく人生を選んだってことなんでしょう。周りの人達がいてくれるおかげで今の自分がある。夫婦関係も育児も大変だけれど、それでも、人とフーフー言いながら生きるのはとてつもなく面白く、そして尊いということが伝わってくれればうれしいと思います。

清水浩司
『がんフーフー日記』(小学館刊、2011年)の著者・川崎フーフのダンナ。広島県出身。フリーライターとして、現在は広島を拠点に活動。著書に青春小説『ぼんちゃん!』(小学館文庫、2012年)、音楽的連作短編『真夜中のヒットスタジオ』(小学館文庫、2015年)など。

『夫婦フーフー日記』(配給:ショウゲート)。5月30日(土)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー。(C)2015川崎フーフ・小学館/「夫婦フーフー日記」製作委員会
『夫婦フーフー日記』(配給:ショウゲート)。5月30日(土)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー。(C)2015川崎フーフ・小学館/「夫婦フーフー日記」製作委員会

映画『夫婦フーフー日記』
17年間友達で、ようやく結婚したと思ったらその直後に妊娠が分かり、さらにヨメが直腸がんであることが発覚。出産を経て闘病、育児の日々を夫婦でつづった闘病ブログは、「がんフーフー日記」として書籍化する。その映画版ではヨメが亡くなった後、〝突然、死んだはずのヨメが現れ、夫婦の日々を振り返る″というエピソードを加えてを描く。監督は前田弘二、脚本は林民夫、前田弘二。ダンナ役に佐々木蔵之介、ヨメ役に永作博美。5月30日(土)より新宿ピカデリーほか全国公開。

(文/牧口じゅん 写真/平岩享 編集/Integra Software Services)