PTAの基本は親と教師が話し合う場。問題があれば、立ち止まって考えればいい

―― 興味深いのは、具体的な活動があってそれに向かうというよりは、意見が交わせる場を維持することが大切だという姿勢です。

福里 各地のほとんどのPTAは“自動入会”であり、「役員の成り手がいない」「活動への参加者が少ない」「活動が活性化しない」という悩みをお持ちだと思います。その原因をPTA役員の皆さんの多くは、本当は分かっているのではないかと思います。分かっていても、何もできない。

 識名小学校PTAもかつてはそうでした。今はこのような悩みはありません。私は、平成26(2015)年度の6月の「新PTA結成式」で、集まった会員の皆さんに「パラダイムチェンジをしよう!」と言いました。識名小PTAの「パラダイムチェンジ」は「子どものためのPTA」から「保護者のためのPTA」というものです。

 視点を変えて考えてみて、「保護者が幸せになれば、子どもも幸せになる」と考える。まず幸せになるべきは、保護者ではないかと思うのです。そのための活動の場が「ミーティング」です。PTAは、もう何十年も同じ活動を繰り返しながら進んできたのだから、「ここらで立ち止まって、別のやり方を考えてみよう」と提案してみたわけです。

―― 重要なことを聞き忘れていました! PTAには地域との関係を求められる側面もあります。識名小学校にとっては9月の「しきなっ子まつり」ですね。これについて何か問題はありませんでしたか?

福里 「しきなっ子まつり」は、16年続いているPTA主催の大イベントでした。PTAが「任意入会」になり、学級・学年委員や専門部が無くなったので、継続できるのかと心配されていました。すべての活動を停止した平成25(2013)年度は、やりたい人が集まらなかった場合は、お祭りの中止を覚悟しました。

 16年間続いたとは言え、他のPTA活動と同様に「準備が大変」「お手伝いの保護者が少ない」などの問題はありました。しかし、平成25年度は6年生の保護者の方々が、積極的に「祭りをやろうよ!」と、他の学年の保護者をリードしてくれたことや、祭りの内容を見直し、規模を縮小したりして、なんとか、保護者有志の主催として、「しきなっ子まつり」を無事に開催することができました。

 また、翌年の平成26(2014)年度は数人の保護者から「そろそろ『しきなっ子まつり』について考えませんか?」という積極的な提案があり、実行委員を募りましたが、最初の打ち合わせに集まったのはたったの10人(笑)。「これでは厳しいよ。これ以上の人数が集まらなかったら、今年は中止かもね」と言いました。最初に集まった保護者の要望で、夏休み明けに再募集をすると、20人くらいに増えました。

 どうにかやれそうだということになりました。ただし、いつもよりは企画・準備に関わる保護者の数は少なく、学年ごとの人数にばらつきがあったので、学年ごとの区切りでの運営をやめ、部門ごとに人数を振り分けて行いました。

―― 実は、このことを聞いたのは、「保護者のためのPTA」とか言うと、最近の保護者は「自分勝手だ」などと言い出す人が必ずいるからです。でも、「自分が保護者であることのシアワセ」を噛みしめられれば、それって自ずと子どもも含めてのことになるわけだし、心身ともに充分に余裕があれば、「子どもと一緒に楽しめる企画をプロデュースしちゃえ!」っていう人達が出てくるんじゃないかと思ったからでした。うん、「人が集まらなければやらない」という態度が人を呼ぶのかもしれない。

 さて、お祭りでは、具体的にどんなことをするのですか?

福里 「しきなっ子まつり」には三部門あります。体育館内で「舞台発表」、 屋外では「ゲーム体験・チャレンジ部門」「飲食バザー部門」があり、体育館内では「舞台発表・作品提示部門」を行っていました。

 PTA活動を停止した平成25(2013)年は、体育館内の部門はやめて、屋外での「飲食バザー部門」と「ゲーム体験・チャレンジ部門」だけを行い、祭りの規模を縮小しました。それでも、いつも通りの盛り上がりはありました。翌年の平成26(2014)年は、「子どもの発表の場は大事なので、舞台発表を復活させましょう」という声が保護者から上がって、前年度はやめにした体育館内での「舞台発表」が復活しました。人が集まらないものはやめる。やりたい人がいるなら、廃止したものでも復活させる。“前年踏襲”にこだわらない、柔軟な祭りの運営対応ができました。

 しかし、毎年のことですが、終わった後の反省会では、運営に関わった保護者からは「大変だった」「来年はちょっと…」と言う声が、必ず出ます。なかなか、運営側も、参加者もみんなハッピーとはいきません。次年度も「しきなっ子まつり」を開催するかはこれからの検討ですが、コアメンバーとして動く人がどれだけ集まるかですね。もし、集まった保護者が極端に少なくても、そのメンバーに「どうしてもやりたい」という意思があれば、人数に見合った規模でやればいいと思います。

―― 大事なことですね。長いスパンの話になりますが、福里会長がいるあと2年はできるとのことですが、どんなふうにすれば、新しいPTA活動を次の人達にバトンタッチできると思いますか?

福里 難しいですねえ(笑)。活動は「ミーティング」中心でいいと思います。保護者と教師が話し合える場を持ち続けていく。PTAは何か社会的な活動をしなければならない場ではないし、そういった活動を前提に考える必要はないと思います。「ミーティング」を通して、「こうした活動をしたい」という意見が出てきたら、それをやればいいと思います。あくまでも基本は「ミーティング」でいいと思います。そのためには、「ミーティング」への参加者をもうちょっとだけ増やして、ミーティングの進め方や、話しやすい雰囲気作りを工夫しなければならないと思います。

―― 「社会的活動」「市民活動」の場にしたい人もいますよね。また、「行政に対する要望を通すためにPTAが必要」とか、「学校に保護者の目がないと監視できない」とか。そういう意見も根強いです。

福里 PTAには「学校の監視役」や「圧力団体」といった役割もあったかもしれないですが、私は、それは全く考えていません。あまり肩肘張らずに、ゆるゆると「会員のため」となるような活動をしたいと思います。識名小学校PTAは外向きではなく、内向きでやっていきたい。

―― 興味深いし、名残惜しいのですが、聞きたいことは一通り聞かせていただきました。最後に、一つ、強調するとしたら?

福里 識名小PTA改革の基本的な考えは、「任意」です。つまり、「意思に任せる」ということです。これは、「入会」にしろ、「活動」にしろ、個人の「意思」を尊重することです。「子どものため」とか、「親としての義務」などと言わずに、会員意思を尊重した活動を考えてみてはどうでしょうか。PTAはあっても無くてもいい組織です。そんなにたいそうなものではない。

 「PTAが無くなると学校が困る」と言っている学校は、ならば、PTAと一緒に無くなってしまったほうがいい(笑)。私ならそんな学校に子どもを通わせたくはありません。でも、「保護者と教師が家庭教育や学校教育について学び合い、成長し、子どもの教育に生かしていく」。こんなことができるPTAなら私はあったほうがいいと思います。識名小PTAはそんなPTAを目指したいと思います。ゆるゆると。

―― これからもこれまで同様、ぜひ「ゆるゆる」と続けてください! 応援しています。

* 次回からは、「最初は改革の抵抗勢力だった」と語る、大湾清彦校長へのインタビューです。

(ライター/阿部祐子、撮影/河野哲舟)