法律上は任意参加でありながら、全員参加が暗黙の了解になっていることも多いPTA。「子どもが小学校に入学した日からPTA会員になった僕は、なんか変だぞと感じたり、いやいやなかなかPTAっていいとこあるじゃんなどと思ったりしつつ、2007年からはいわゆる本部役員まで経験してしまった。その中で、感じ、調べ、議論してきたことを一冊の本にまとめた」。こう話す『PTA再活用論―悩ましき現実を超えて』(中公新書ラクレ)著者の作家・川端裕人さんが、各地のPTA活動や組織活動をリポートします。

今回の舞台は沖縄県。完全に任意制PTAを取り入れ、活動内容を公開している「那覇市立識名(しきな)小学校PTA」。「普通のPTA活動」からどんなふうに改革を実現したのか。前回記事「『保護者会での役員決め』をやめたPTA会長に聞く」に引き続き、識名小学校PTA会長の福里浩明さんを直撃インタビューします。

PTA会長4年目に、PTA会費の徴収を止めることを決意

識名小学校PTA会長の福里浩明さん
識名小学校PTA会長の福里浩明さん

川端 一旦、副会長に退いて、またPTA会長に戻るとき、「PTAを変えていく」と宣言されたそうですね。校長ですとか、PTA事務さんは理解があったのですか?(那覇市の小学校では、PTA事務がいる場合が多い。PTA事務局業務のためにほぼ毎日来校してくれている人で、PTAが雇っている)。

福里さん(以下、敬称略) この改革の一番の理解者がPTA事務のSさんです。Sさんは、識名小でPTA事務歴7年半のベテランの方でした。私とは、会長一期目の時からのお付き合いです。また、Sさんは識名小の卒業生でもあり、保護者としても識小PTAで役員経験もある方で、識名小について一番詳しい、という方でした。

 当初から「任意入会」については、機会ある度にSさんとは話していました。「PTA会費の徴収をやめる」と言うことについては、「徴収しなくても大丈夫。なんとかなりそうだ」というSさんのお墨付きをいただき、「よし徴収はやめよう」と決心できました。

 その結果、PTA事務を雇う費用も無くなり、Sさんは職を失ってしまいます。しかし、Sさんは「改革のためなら構わない」とおっしゃってくれました。それどころか、平成25(2013)年度には、私が朝の絵本読み聞かせをする火曜日の朝は、Sさんも学校に来てくれて、色々と相談に乗っていただきました。しかも、無償です。この1年間は本当にSさんに支えてもらいました。

 平成25年度に、再び会長になったときのPTA総会で、“任意入会PTA”への改革について方針を示しました。具体的には、“任意入会PTA”は「平成26年度からスタート」とし、この1年間は「新しいPTAを考える会」を設け、“任意入会PTA”について保護者、および教職員の方々と話し合っていくことにしました。また、その間、「新しいPTAを考える会」の活動に集中すべきと考え、PTAの活動をすべて止めました。これは「PTAが無くなると学校は困るか?」の実証実験になります。

PTA会長4年目に、それまでのPTA活動を一旦停止

―― その時点で、それまでのPTA活動は一旦終了したということですか? といいますか、「新しいPTAを考える会」という名前のPTA活動ってところですかね。

福里 はい、そういうことになります。副会長も敢えて決めず、組織を無くし、会長と監査役の2人だけにしたのです。監査役を残したのは、平成25年度の運営資金は前年度の繰越金としたためです。PTA活動としては「新しいPTAを考える会」だけです。毎年行っていたPTA主催の「PTA作業(校内美化作業)」は、学校主催の美化作業として、校長から保護者に対して呼びかけて、実施していただきました。

『PTA再活用論―悩ましき現実を超えて』著者・川端裕人さん
『PTA再活用論―悩ましき現実を超えて』著者・川端裕人さん

―― それまでは、学校からまずPTAが受け取り、PTAが保護者に発信していた「美化活動強力へのお願い」を、学校からの保護者への直接的な呼びかけにした、と。その結果、美化活動への集まりはどうでしたか?

福里 作業に必要なだけの保護者は集まり、特に問題はありませんでした。PTA主催でも、学校主催でも、作業内容は同じなので、保護者も違いは感じなかっただろうと思います。唯一、保険の面で大きな違いが生じたので、民間保険会社の「レク障害保険」で対応することにしました。毎年、PTA作業は年3回行っていましたが、その内の1回は「親父の会」主催で実施されました。こちらも、参加人数は十分に集まりました。

―― ああ、それは腑に落ちますね。僕は日本で“PTA疲れ”した後、子どもを連れてニュージーランドに住んでいたことがあるんですが、「ワーキングビー(働き蜂)活動」といって、草取りとか、美化活動を呼びかけると、だいたい保護者の1割とか2割、来るんですよね。もちろん、全員来るなんて有り得ない。でも、だいたい、来る人は来るし、来ない人に対して不平とか言うのも聞いたことが無い。

 さて、美化活動の他にも、「これはPTAにお願い」となっていたことはありますよね?

福里 その他には、運動会の「PTA種目」を「保護者種目」に呼び名を変えてもらったり。とにかくPTAと付くものをすべて「保護者」にしてくださいと。「学校長名でそう呼びかけてほしい」とお願いしました。

―― 極端な話、運動会の当日の呼びかけでも「PTA種目」というよりも、「保護者種目」のほうが人は集まりやすい気がしますね。

福里 そうなんです。“自動入会PTA”では、保護者は全員PTA会員となるのですが、一部の保護者は「PTA? いやいや、私はPTAじゃない。PTAって役員だけでしょ?」というような理解の保護者もいるのです。そう理解している人は、「PTA○○」というネーミングだと「自分はPTAではないから、関係ない」と捉えてしまう場合もある。

 でも、保護者という呼びかけ方は、子どもを学校に行かせている親は全て保護者であり、保護者がその自覚は100%だと断言できるので、「『保護者』と呼びかけるほうが好ましいのだ」と校長には説明しました。

―― 学校を支援する労力提供の活動もそうですし、運動会のPTA種目にしてみても、とにかく、学校からPTAではなくて、保護者に直接呼びかけてもらう、と。当たり前と言えば、当たり前のことですよね。