公費で賄える部分を削ったら、年会費ゼロでも運営できた

―― ところでお金が絡んでくる活動には、どう対応したのでしょうか? 色々意見が分かれてくるところだと思うのですが。

福里 平成25年度については、前年の繰越金約60万円で対応しました。それまでの識名小学校の年間PTA予算は約500万円でしたが、その約10分の1の予算で対応できたことになります。PTA事務のSさんと事前に検証した際に、その予算で問題ないことが分かっていました。

 「会費を徴収しない」ことに対しては、まず、PTAの活動で必要なお金と、学校のために使うお金を分けました。PTA事務のSさんと一緒に、帳簿に記載されている支出を一項目ずつ精査しました。「これは公費」「これは必要」「これは不要」「これは微妙」と仕分けしていくと、「意外と公費の範囲内で収まるのではないか」ということが見えてきた。それら整理して学校側に提示し、「PTA会費を徴収しなくても問題が無い」ことを示しました。

―― 公費だけで学校を運営するって、理念的には正しくても実際は難しいですよね。どこまでが公費でやるべきなのか、保護者がどこを負担すべきか。そこにPTAが絡んできて、もう“ぐちゃぐちゃ”な印象があります。そこをどう整理したんでしょうか。

福里 「適正なお金の使い方をしているか?」という問いかけをしたわけです。感覚としては、それまで集めていた、児童一人当たり年間7800円のPTA会費は、1000円以内にまで落とせると。

 無駄な出費も指摘しました。例えば、「職員室用の新聞代」。公費では図書室用の新聞代は支出できますので、先生方には「新聞が必要なら図書室を利用してください」と伝えました。また「肥料代」などは公費でも支払えますので、「公費の範囲で美化整備してください」と。しかし、草刈り機の「燃料代」、運動会での来賓用の「弁当代」などを公費で支払うことはできません。「先生方に無理を強いるのではない。無駄を無くす」という方針で進めました。

―― 資料によれば、環境整備では「立て看板には公費が出ないけれど、花の苗は公費が出る」といった細かい規定もあるようです。今回は、那覇市の資料を見せてもらっていますが、いずこでもこういう細かい規定が決められていますね。そんな中で、保護者が負担しているものもある。こういった状況はどこも同じだと思います。

福里 私は公費でできることを私費(PTA会費)でしてはいけないと思います。学校側からは「公費だけでは額が足りないものもある。十分でない」「予算を切りつめすぎても、子どもにしわ寄せが出てくるだろう。公費にはないが、必要なものもある」という声もありました。

 そういった意見にも一理あり、「燃料費」や「弁当代」など、「公費負担経費区分基準」に無くても、学校としては必要なものがあります。私が教育委員会に確認したときの「公費負担経費区分基準」は1999年4月のものでした。15年間同じ基準でやっているわけです。行政は学校現場の実情に合うように見直しを検討したほうがよいと思います。

“任意入会”の妨げとなる一因として、「お金」の問題は大きい

―― 僕自身、この件については強い信念は無くて、「まあ場合によるよね」と思っているほうですが、中には「公費にできるものはすべて公費にすべきだ」という強硬な意見もあります。

 保護者にしてみると、年間7800円のPTA会費が無くなって、その代わりに学校に対して年間500円の「教育振興費」を支払うようになったわけですね。この部分で引っかかりを覚える保護者もいるんじゃないでしょうか。「教育振興費」は校長名で徴収しています。つまり、「教育振興費」の内容について疑問を呈する保護者には、校長が対応するということですね。

福里 そうですね。「教育振興費」は学校側が保護者に対して援助を依頼しているものです。学校側は「教育振興費」の導入にあたっては、「保護者説明会」を開催して説明しました。ですから、寄付の強制にはなっていないと思います。納付率も100%ではないし、督促もありません。

 本校の校長は一応の手順を踏みました。でも、那覇市内の小中学校に限っていえば、すべての学校に、PTA会費とは別の「教育振興費」、または、かつての識名小のようにPTA予算の費目として「教育振興費(識名小は“学校協力費”)」という「公費を当てられない。または、足りない分を保護者が負担するお金」が存在します。

 もしも、「教育振興費」に対して疑問を呈する保護者がいて、「そんなお金は払う義務はない」と言えば、法律的には保護者のほうが正しいのかもしれない。解釈は色々あると思いますが、義務教育は「これを無償とする」という考え方です。私もそれが理想だと思います。

 しかし、実際には保護者にとってはそれほど抵抗のあるものでもない。「でも、子どものためになるなら払わないとね。必要なら仕方ないわ」といった気持ちで出していると思います。学校も行政も「教育振興費」はそのような保護者から学校に対しての「寄付」ではなく「信託金」と考えてもらい、大切に使ってほしいと思います。

 「気軽な第二の財布」的な扱いが、学校現場では多々あります。識名小の改革において発生した「教育振興費」について、ある方から「徒花(あだばな)」との指摘を受けました。私もそうだと思います。早いうちに無くなってほしい。行政はもっと教育に予算をかけるべきだと思います。保護者も学校もお金のことで頭を悩まさずに済む。“任意入会”の妨げとなる一因として、「お金」の問題は大きいと思います。

―― 僕は、PTAが「第二の財布」の役割を止めて、直接、学校にやってもらうといった点で、かなり、問題が可視化されてよかったと思います。徒花だろうとなんだろうと、PTAが隠然と抱え込むと、変な共犯関係、共依存関係が深まって、どうにも変われなくなってしまう。