―― 生後3カ月ならさく乳も頻回ですよね。搾った母乳はどうしていたのですか?

小林 上の子のときは1日に1~2回のさく乳だけで済み、その都度捨てていましたが、下の子のときは復帰が早くて母乳がよく出たので3時間おきのさく乳が必要でした。ちょうど通っていた認証保育園が冷凍母乳を受け入れてくれたので、さく乳したものを役員秘書に頼んで役員冷蔵庫に保管させてもらい、持ち帰っていました。

 ワーキングマザーの会のメンバーのなかには、トイレでこっそりさく乳をしていたところ「生臭いからやめて」と言われた人もいたそうです。同性にもそう言われるというのに、ましてや男性の上司には到底理解されないだろうと相談できない人は多いですよね。皆さん、さく乳には苦労していました。

 そこで、メンバーにアンケートを取ってさく乳室に必要なものを聞きだし、母乳を保管する冷凍庫、さく乳器を洗うためのシンクを新本社プロジェクト部長にリクエストしたんです。

 多種多様な人が活躍できる環境を推進するための、当社のダイバーシティディベロップメントオフィスができたのが2004年10月。さく乳室の要望を受け入れてもらえたのはそれよりも前のことです。今思えば、一人ひとりの価値観や多様性を尊重する土壌があったのかもしれません。

さく乳に限らず、つわり、生理中に休める場としても利用可能

―― さく乳室は今、どのくらいの利用があるのですか?

小林 現在、5~10人の社員が利用しています。復帰直後は頻回のさく乳が必要になることも多いので、年度始めはやはり利用者が増えますね。2席あり、さく乳だけでなく、妊娠中や生理中の女性が体を休める部屋にもなっています。昼休みが比較的混み合うため、ウェブで予約できるようにしてほしいとのリクエストもあるなど、改善点は検討していきたいと思っています。

 約2000人が勤務するグローバル本社内に設置されていますが、他の事業所や工場でも当然、希望の声があります。隣のビルや離れた場所にあっても使いづらく、仕事場のすぐ近くに備えないと意味がありません。敷地の広い工場や研究所などでは何カ所も設置する必要があるため、まだ導入には至っていませんが、これは今後の課題と考えています。

―― 設置に当たっては社内に賛否両論あったと思います。日本全体で見ても必要か不要かは意見が分かれるところですが、そのことについてどう思われますか?

小林 産後に胸が張るのは生理現象の一つで、さく乳はトイレに行くのと同じようにごく自然なこと。張りをそのままにしておけば乳腺炎になって高熱が出ることもあります。よく、「喫煙所があるんだからさく乳室もつくるべき」とか、逆に「喫煙所も無いんだからさく乳室だけつくるのはおかしい」という意見がありますが、そもそも、タバコを吸う・吸わないという趣味嗜好と、さく乳を同列に語るのが間違いだと思っています

 さく乳室は小部屋と椅子、冷凍庫、洗面所と、比較的コストをかけずに準備ができます。スペースや予算の都合など、もし企業側にさく乳室をつくれない事情があるなら、育休を2年しっかり取って断乳してから復職するように働きかけるべきであり、早期の復帰を促すなど女性の社会進出、労働力に期待をするのなら、さく乳室とセットで考えるべきだと思います。

写真はイメージです
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