一見すると「仲が良さそう」。注意深く見ないと、教師はいじめを把握できない

次にゲストスピーカー、北海道教育大学・元副学長の今泉博先生が登壇しました。今泉先生は東京都で30年以上にわたり小学校教師として勤務し、その実践から得た知見を理論化しています。

ゲストスピーカーとして登壇した、北海道教育大学・元副学長の今泉博さん
ゲストスピーカーとして登壇した、北海道教育大学・元副学長の今泉博さん

今泉さん いじめ問題の解決は、切実な国民的課題だけに、今回のアンケートの提案は画期的なことだと思っています。

 いじめ問題を解決するためには、実態を把握することが第一です。ところが、この実態の把握が簡単ではない。いじめは人間関係の無いところで発生しない。つまり、「仲良し」のグループで発生するものなのです。一見すると非常に仲がいいように見える。そこで教師が実態を見逃してしまいがち。

 尾木先生が強調されていたように、被害者と加害者が固定化しておらず、同じ子どもが両方の立場を経験する状況がある。ちょっとした事実の「点」が「線」「面」になって実態が見えてきます。人間関係を注意深く観察する必要があるのです。

 しかし今、教育現場は非常に忙しい。事務も会議も多い。そんな中で、子どもに向き合い、寄り添い、いじめを何とかするところまで追い付かないのが、悲しい実情です。

 そして、いじめの現場を教師が注意すると、いじめられていた子のほうが否定する。なぜなら、いじめられていることを認めたら、いじめがますますエスカレートするからです。

 アンケートを見て、尾木先生が20年以上にわたって研究してきた成果が実によく反映されていると感じました。子どもが自分で「これはいじめなのかどうなのか」と悩みながら学習できる構成になっている。一般的な認識では、行動まで行き着きません。「おかしい」「かわいそう」という感情や意識が生まれてこそ、いじめ解決につながっていきます。そこがいいなと思いました。

 アンケートをただ機械的に実施していたのではダメだと思うのです。

 一番大事なことは、いじめがあったクラスならなおさら、教師が「本気でいじめを無くしたい」という思いをアンケートをする前に語ること。そして、子ども達自身の力で、いじめ問題を解決していくように、粘り強く指導・援助していくことです。