アンケート調査の前には、子ども達が安心できる入念な説明が必要

尾木 本アンケートは、これまで行政や学校が実施してきたアンケートとは全く視点が違います。ポイントは6つあり、アンケートにもそれは次のように明記しています。

1) このアンケートは、犯人探しや非難のためでなく、みんなで人権や他人の心の痛みとは何かを学習する“学習アンケート”であること。

2) だから、正直に自分と向かい、素直に回答していこう。

3) 自分がいじめていたことが分かってもあわてず、自分を信じて大胆に明るく乗り越えていこう。「乗り越える」。これが大事なんだよ。

4) いじめの加害者は、どうしてそうなってしまったのか――心の背景や原因を探ろう。そのためには先生達は応援団だ。その人も必ずいじめの世界から脱出し、みんなから好かれる人権など侵害しない明るく大らかで豊かな人になれるんだ。

5) 被害者だと分かったときも、落ち込む必要はない。このクラス内であれば、加害者は必ずストップできる勇気と優しさを兼ね備えて持っている人ばかりだから。

6) 被害者は、例えどんなに自分に問題があったとしても、そのために「自分がいじめを受けても仕方ないんだ」という理由は全く成り立つはずがない。どんな場合でも、いじめは許されないんだよ。いじめるほうが悪くて、加害者がいじめをストップさえすれば、問題は一気に解決するんだよ。自分を責めないで、クラスぐるみ、先生と協同して、いじめっ子にいじめをやめさせる大作戦を展開しよう。大丈夫だよ。

 このようなコンセプトに基づき、8つの設問で構成しています。

 「問1」は、個人のいじめの認知状況を把握するためのものです。先ほどもご説明しましたが、項目の中には、「ふざけ」や「いじめではないもの」も含めてあります。子ども達が迷い考えあぐねることを狙っているのです。

 「問2」は、いじめ発生状況の把握が目的です。「目撃度」によって、いじめがこの学年で起こっていることなのか、過去に起きていたのか、ここ1週間以内に起きているのか……といったことをチェックします。こういった状況を把握することで、どのような指導が必要なのかという処方箋を作ることができます

 「問3」は、自己体験の把握です。今の子ども達は多くの場合、加害者としてと、被害者としての両方の経験を持っています。子ども達自身がそれを認識することが大切です。

 「問4~6」は、いじめに対する批判力を見ます。「いじめに対する批判力の高い子」がいる一方で、「いじめに対する受容力が高い子」、つまり「人権感覚の鈍い子」がどれだけいるかが明らかになります。例えば、人権感覚の鈍い子が30人中20人いたら、クラスづくりをするうえで、相当なてこ入れが必要になってくるということが分かるわけです。

 「いじめの感度」に重きを置いた内容なので、アンケートに回答することにより、いじめ防止への学習効果も期待できます。

正常なモラルが広まらなければ、学校での「いじめ」問題解決は難しい

尾木 このアンケートを学校の先生方に取ってみたらどうでしょう? いじめ感度の鈍い先生ばかりならピンチですよね。また、保護者はどうでしょう? 子どもだけでなく、大人達も自身のいじめに対する意識を見つめる機会が必要ではないかと思います。

 正常なモラルが学校や家庭、地域、そして社会全体に広がらなければ、保護者が先生に「先生、うちのクラスのいじめを何とかしてください」と言っても、現場で解決することは難しいのです。地方教育行政法の改正といういいタイミングで、このアンケート調査が全国に広がればいいなと思っています。