手術後の傷がなかなか良くならず、気分が沈む

 術後に多くの経験者が悩まされるのが、お腹に残った傷の痛みや見た目。

 比較的早めに傷口が回復する自然分娩と違って、帝王切開の傷跡は長い期間、痛痒さに悩まされる人が多い。

●「一人目のときの手術後は、傷跡がケロイド状になってしまって、傷跡の周りがすごく痒かった。会社にいて人目があるにもかかわらず、我慢できずに掻いてしまったり…。二人目のときは少し良くなったのですが、傷の幅が広くてやっぱりケロイド状に。手術した病院に相談してみても、痒み止めを出してくれる程度で根本的な解決になっていません」

●「天気が悪かったり生理中だと、傷が痛んだり、痒くなります。産後1年9カ月経っても、未だにジーンズが履けません。ジッパーが傷に当たるのが気になって。自由に洋服を着れず、この痛痒さが一生続くのかなと思うと落ち込みます」

 医師側は母子にリスクの少ない縦切りを勧めることもあるそうだが、「とにかく目立たないように」との切実な思いから、横切りを選択する人もいる。また、手術後の傷の程度や回復状況も人によってさまざまで、帝王切開をする人の心の負担につながっているようだ。

 少数派ではあったが、「シャープペンシルの芯よりも細い線で、ほとんどわからない。実母すら気付かなかった」という人もいた。

経験者だからこそ、伝えていきたいこと

 会場には、助産師による育児アドバイスや離乳食について学べる「新米ママ講座」や妊婦同士の交流会である「お産カフェ」といった講座やイベントを長年開催しているNakocco代表の田中由実さんも参加。「帝王切開だけが特別なのではなく、例えば吸引分娩なども気にする人はいますよね。いろいろな出産があって当たり前という認識になれば、当事者の心も軽くなるかもしれませんね」という声に頷く人は多かった。

 「傷ついたお腹を見て、出産のことを時々思い出す」という参加者。医療関係者のなかには、出産経験はないが帝王切開する妊婦の気持ちがよくわかっている人と、大ベテランと言えるキャリアにもかかわらず、妊婦の気持ちを汲み取れずに流れ作業のようにこなしていく人もいるそう。病院そのものというよりも、執刀医や看護師、助産師など、対応は個人によってさまざまで、病院選びの段階ではなかなか把握できない。ましてや、緊急帝王切開となればさらに見極めるチャンスは少ないだろう。

 今回の座談会を開催した宮尾さんはこう語る。「帝王切開経験者が感じた改善点を、医療関係者側にうまく伝える仕組みがまだまだ足りていないのです。よりリアルな声を現場の医療関係者に伝えていくことで、今後、帝王切開する人の気持ちが少しでも軽くなればいい。また医療関係者だけではなく、身内や周囲の方にも帝王切開に対し、より分かっていただけるように伝える努力をしていきたいですね。帝王切開カフェは、今後も新しい展開を考えていきたいと思います」。

●前編の記事は「帝王切開経験者に残る「心のしこり」」

(ライター/飯田麻衣子)