予定していなかった「緊急帝王切開」は、心の準備が追い付かない
予定帝王切開の場合は「妊娠期を計画的に過ごせ、心の準備ができるが、帝王切開に関する情報はまだまだ少ない。また妊婦教室などで自然分娩予定の妊婦たちと一緒に、実際には行うことのない呼吸法を練習したり、乗ることのない分娩台の見学に行くことがあって、複雑な気持ちになった」という。
また緊急帝王切開の場合は「出産まであと少しと迫っている緊迫した状態のなかで、自然分娩を諦め、帝王切開に頭を切り替えなくてはならない。帝王切開の事前知識も乏しく不安になった」「自然分娩できなかったという挫折感が大きかった」という声も聞かれた。
帝王切開に対する心無い言葉や対応に、激しく動揺
「帝王切開だったから保険がきいて安上がりだったでしょ」。
そんな言葉を友人から言われたというある参加者がいた。結婚13年たってもなかなか妊娠できず長いこと不妊治療を続けてきたなかで、奇跡的に子どもを授かった。
その上、元気に産まれてきてくれたのだから、出産のかたちについては何も気にしないはずだった。しかし、そんな心無い一言に触れると、子どもに対し申し訳ない気持ちになることもあるという。
「陣痛も経験せず、自然に産んであげることができなかった。不妊治療から始まり、最初から最後まで人の手を借りてしまった」と振り返る。
予定していた帝王切開の手術では麻酔の効きが悪く、やむを得ず全身麻酔をすることになった。そのため出産後すぐは、赤ちゃんの産声を聞くことも、赤ちゃんに触れることも叶わなかった。
「最初に触れたのは義理の父。悪気がないとわかっていても、孫に最初に触れたのは俺だ、という言葉に深く傷ついた」という。
「傷跡はママと赤ちゃんが頑張った証拠」の言葉に涙
「ママ友が集まると出産話で盛り上がるじゃないですか。陣痛が3日間続いたとか話しているなか、私は帝王切開だったって言うとみんなが引いていくのがわかるんです。帝王切開のことを聞いてもらうと嬉しいんだけど、私に遠慮して聞くに聞けないのかな」という人もいる。
幸い、彼女が入院した病院は帝王切開する女性の気持ちを大事にしてくれる病院だった。院長以下スタッフまで教育が行き届いていて、最後まで気持ち良く過ごせたという。
「退院時に、『傷跡が残っているけど、これはあなたと赤ちゃんが頑張った証拠だから気にすることないよ』と言ってくれたことが本当に嬉しかった」。
そのほか、「産道を通らなかったね、もったいない」「次も自然分娩は無理ね」といった実母からの言葉に傷ついたという人も。「うるさいな~と言っておいたけど。身内ほど辛辣だよね」というコメントに、参加者からは「わかる!」といった声があがった。
「赤ちゃんは無事に生まれてきてくれた。でも、なんだかスッキリと心が晴れない」――。やり場のないお母さんの複雑な気持ちは、なかなか癒えない。人知れぬ苦悩を抱える人もいる帝王切開。経験者たちを救うのは一体何なのだろうか。
次回は、帝王切開経験者達の工夫と家族の幸せについてお伝えする。
(ライター・座談会写真/飯田麻衣子)