職場のさく乳環境が整っていないから、母乳継続を諦めた

 母乳育児を諦めてしまう背景には「さく乳」に関する職場環境への不安が少なからずあることを、調査は示している。

 復帰後に母乳育児を断念した、もしくは仕事中は母乳を与えなかった母親のうち「母乳を与えたかった」と答えた母親に、継続が難しかった理由を聞いたところ、「職場と保育場所が離れていて、直接母乳を与えに行けなかった」(46%)という物理的な理由以外にも、「職場で業務時間内にさく乳する時間がとれないと思った」(29%)、「職場にさく乳できる場所がないと思った」(28%)、「職場にさく乳した母乳を保存できる冷凍庫がないと思った」(16%)と、職場でのさく乳が現実的でないことを理由にあげる回答もあった。

 復帰後も母乳育児を続けようとする場合、子どもと離れている日中にたまってしまう母乳を搾る「さく乳」が必要になることもある。特に子どもが低月齢で復帰する場合、長時間授乳間隔が空くことに体が慣れていないため、日中にさく乳しないとおっぱいの張りが強くなる(硬くなり、痛みを伴う)ことも。加えて、母乳は乳頭への刺激によって作られるため、昼間子どもに吸ってもらえない分、自分でさく乳をして分泌量を維持させる必要も出てくる。

 このようにさく乳は体の生理現象による必然的な行為であるにもかかわらず、復帰後、仕事中に思うようにさく乳ができず、人知れず悩むワーママ達が少なくないのだ。

 「実は私自身も仕事と母乳育児の両立を断念した一人です。前職では生後10カ月のときにフルタイムで復職し、母乳育児を続けたい気持ちはありましたが、職場にさく乳室が無かったため、残業もあるなかで授乳間隔が長く空くことが体に負担になり、断乳を決めたんです」(菅谷さん)

(N=169)
(N=169)

職場でさく乳している人の約6割がトイレで実行

 そんな中で、実際に職場でさく乳した経験があるかどうかの質問で「ある」と答えた人は15%。そして、その場所として最も多かった回答は「トイレ」(58%)だった。

 続いて「空いている(使っている人がいない)会議室・仕事部屋」(19%)、「休憩室・談話室・食堂などのフリースペース」(16%)となり、「さく乳室/さく乳専用の部屋・スペース」はわずか5%にとどまった。

 トイレでさく乳するということは、衛生的に考えると絞った母乳は捨てることになる。もし専用の部屋と冷凍庫があれば、さく乳した母乳は持ち帰って子どもに与える選択肢も生まれる。

 ちなみに、保育所保育指針(児童福祉法)には「(保育園は)母乳育児を希望する保護者のために、冷凍母乳による栄養法などの配慮を行う」と定められてはいるものの、冷凍母乳の受け入れについては、自治体や園によって対応がまちまち。直接、園に確認するといい。