マーク・ブラウンロウ(監督/脚本/製作)
野生生物系作品の製作者として、BBCナチュラル・ヒストリー・ユニットや、ジョン・ダウナー、シルバーバック・プロダクションと共にドキュメンタリー作品を製作・監督。これまでに携わった主な作品に、エミー賞を受賞したBBC・DCI『プラネットアース』、『Wild Pacific』、『Supernatural』、BBC・ディスカバリー・スペシャル『Inside the Perfect Predator』、『イグアナ~恐竜のように生きる』(ミズーラにて最優秀賞を受賞)などがある。ディスカバリー最新作の大ヒットシリーズ『ノース・アメリカ』ではプロデューサーを務める。ほかにもプロデューサーとして、クジラやイルカに関する3つのパートで構成されたエミー賞候補作品『オーシャン・ジャイアンツ』を製作。また、シリーズ作品『Hidden Kingdoms』で小さな動物にまつわるドキュメンタリーを製作し、高い評価を受ける。本作は『Hidden Kingdoms』の関連作品となるスクリーン向けの3D映画として製作された。

──『小さな世界はワンダーランド』、心から楽しみました! 完全に気持ちが映像の中に入り込んで、シマリスやスコーピオンマウスのすぐそばにいる気分で、子どものように興奮しっぱなしでした。BBCアースの作品は、いつも素晴らしいですが、今回は特にエンターテインメント性が高いと思いました。その辺りは、意識されたのでしょうか?

 「本作は、いわゆる伝統的なネイチャー映像とは、ちょっと違っています。『アース』や『ディープ・ブルー』などとは作り方が違うんですね。なぜかと言うと、小さな生き物たちの短い人生の中には、本当にドラマとアクションと冒険がいっぱい詰まっていて、それをみなさんにお見せするには、やっぱりストーリーテリングとして、ドラマチックなものにしなければと考えたからです。だから、エンターテインメント性が高いんです」

──なるほど。シマリスとスコーピオンマウスという、愛らしい小さな生き物の成長物語が、とても興味深かったです。

 「ハリウッド映画のように、ちゃんとした成長物語、冒頭の話があって、中盤があって、エンディングがあるという作りを意識しました。彼らは数年しか生きられないけれど、彼らの人生には驚異的な行動があって、住んでいる世界も流れる時間も、物理の法則も、僕たちの世界とは違う。それをスローモーションで見せて、人間が理解することができるようにしたかったんです」

──監督が個人的に彼らに引かれたのは、どんなところですか?

 「僕は、特にスコーピオンマウスが気に入っているんですが、見かけだけだと、毛むくじゃらでかわいいネズミのようなのに、実は全然そうじゃない。もうスペシャリストなんですよ! 捕食者なんです。毒を持ったムカデやサソリを捕食してしまう。自分より大きい敵に対しても勝つことができるんです。毒に対する免疫があるなんて、スーパーパワーとしか思えない(笑)。そういうところが気に入っています」

──今回の撮影も、本当に苦労されたと思います。特に大変だったのは、どんなことですか?

 「小さな動物たちの、その6インチの視点で体感してもらいたいと思ったので、技術的な挑戦はものすごく大きかったです。それを撮影するためには、カメラやレンズなどシステム自体を構築し直さなければならなかった。3Dのカメラは、装置が結構大きいんですよね。小さなものを撮るのに大きなものを使って、彼らの視点で、彼らの生活を乱さずに撮るというのは、やっぱり技術的に大きなチャレンジでした」

──シマリスの巣の中の様子を見ることができたのは驚きでした!

 「シマリスの撮影は、カナダのモントリオールの近くにある、20年間シマリスの観察をしている保護区で行いました。彼らの生態系における自然な状態の中に科学者がずっといるため、シマリスたちも慣れてしまっているわけです。

 だから、野生の行動を撮影することができるんですね。シマリスは結構怠け者で、暖かくならないと起きてこない(笑)。撮影でバタバタしても、気温の低い朝方に機材を設置してしまえば、まだ寝ているので大丈夫なんです。地面を掘ってセットを組んで、ドングリを置いておくと、そこを巣だと思って、自然に行動するので、巣の様子をカメラに収めることができました」

──日経DUALの編集者の息子は、現在小学校1年生ですが、2歳からBBCアースが大好きで、将来の夢は生き物の研究者だそうです。監督が製作される作品をきっかけに、子どもたちが生き物を好きになって、大きな夢を抱くようになることをどう思われますか?

 「それはもう、最高の褒め言葉ですよ! 子どもたちに僕らの気持ちが通じることは、何よりもうれしいですね。彼らは未来を背負う存在ですし、若い世代をワクワクさせることができて、自然に命の尊さを感じてもらうことができれば、将来的に自然を守ることにもつながります。それは、とても重要なことだと思います」

──ありがとうございます! では最後に、将来、監督のようになりたいと思う子どもたちにアドバイスやメッセージをお願いします。

 「ワオ!(照れ笑い)たくさんありますよ! そうだなぁ、まずは、いろいろな生き物たちについて知らなければいけない。彼らの物語をつづりたいのであれば、彼らの真の姿を知らなければいけないわけで、僕は生物学の学位を取りました。生き物のことをよく学んで、知ることが大切です。

 また、仕事の上で、科学者たちとたくさん会話をするので、ちゃんと会話できるように知識を身に着けて、科学者たちの素晴らしさを理解することも大切。
 でも、何よりも大切なのは、情熱を持つことです。生き物たちに対しても、映像作りに対しても、同じくらい情熱が必要。だから、撮影についてもよく学び、演出やストーリーテリング、ジャーナリストのスキルも持つことが大切ですね。興味を持ったら、もう今日からでもスマホを手に取って、裏庭で撮影をしてみてください!」

(インタビュー写真/小林秀銀)