保護者は保育現場に対してより、大枠の話に意見を出すべきだ

―― 試算結果について、行政の反応はいかがでしたか?

楠田 驚いていました。保護者なのに、国の標準手法より少な目の数量を提案したわけですから。でも、先ほどもお話したように、数字は論理的に積み上げた根拠のあるものです。

 子育て支援政策を語っていると、どうしても感情論になりがちです。子どもはかわいいし、大事ですから。僕も親としてそこは同意します。一方で、忙しいからこそ子どもを預けている保護者としては、昼間の現場のサービスの問題は現場の先生を信頼して預けるしかない部分もあります。

 ですから、どちらかというと、その現場を支える大枠の話にこそ、保護者が意見を出す意味があるのではないかと思うんですね。そうなると、何をどのくらい実施するかという事業量の話はとても大事ですし、それを決める際は論理的に考えて数字をきちんと見た方がいいと思います。数字に右も左もありませんから。

 今回出した試算には「のりしろ」がありません。だから、毎年見直し、ニーズが急増するような要素、例えば共働き率の上昇や人口流入があった場合は、行政もその年度内に対応する体制を取ってくれています。例を挙げると、今年度はある地域の学童保育が足りないことが年明けに判明しました。行政はわずか2カ月で学童保育の臨時対策を決めて、必要な子どもを受け入れられるように手配してくれました。

―― 2カ月で対応してくれたというのは、すばらしいですね。

楠田 文京区では住民と行政の間に、信頼関係があると思います。住民は前向きに意見を言い、過大な要求はしない。それを分かっているので、行政も住民の要求には出来る限り応える。

 そもそも、保育ニーズの算定のみならず、子ども・子育て会議などの協議体に保護者代表が関われるのは、文京区の特徴です。住民参加の自治が行われていることで、優先度の高い施策を実施しやすい、ということは言えるのではないでしょうか。

地元の父母会は子どもがいるからこその機会。気軽に顔を出してみては?

―― 本連載はタイトルにありますように、30代向けです。30代のパパママにメッセージをいただけますでしょうか?

楠田 地元の父母会に関わると、地域の友人が増えます。仕事に関係ない同世代の友達と子ども達も一緒にキャンプやバーベキューをするのは、とても楽しい。子どもがいるからこその機会なので、まずは気軽に顔を出してみたらどうでしょうか。どこまでやるかは一人ひとりのご判断ですから、みんなが僕みたいに深く関わる必要はないですけど、僕自身は、区の審議会とかに出させてもらって、大人の社会科見学という感じで勉強になることも多かったですね。

取材後記

楠田さんのお仕事は、業界や職種を聞くと「忙しそう」「子育てに関わる時間がなさそう」と思われるかもしれません。しかも、かつてはリーマン・ブラザーズの日本における住宅ローン子会社で社長。リーマン・ショックのときは、その影響を直接受けて、保育園関連の活動はしばらくお休みしていた、と言います。

今回のお話は「数字を客観的に見ること」「現実的に政策を考えること」の重要性をお伝えするものでした。お金や時間など、制約がある中で、説得力ある議論を展開する方法論としても、参考にしていただけたらと思います。