2011年3月11日に発生した東日本大震災によって福島第一原発が被災したことから、未曾有の電力危機が発生した。これによって従来以上に「省エネ」が注目されるようになった。

 特に注目されたのが「HEMS(ホームエネルギー管理システム)」だ。太陽光発電システムや蓄電システム、エネルギーを“見える化”して節電できることなどから、一気に注目度が高まったのも記憶に新しい。

 HEMSのメリットはそれだけではない。HEMS対応機器の一つである「ホームゲートウェイ」を利用してインターネットに接続することで、外出先からエアコンのオン・オフなどの遠隔操作もできる。メーカーによっては外出先から宅内の様子を見ることも可能だ。家を空けることの多いDUAL世帯にとって、こういった機能も注目ポイントとなっている。

 電力危機から注目された「住宅IT化」だが、最新事情はどのようになっているのか、迫ってみることにしよう。

一戸建てとマンションではHEMS導入の考え方に違いが

  HEMSとは「Home Energy Management System」の略で、ホームエネルギー全般を管理するシステムのことだ。太陽光発電などを利用した「創エネ」から蓄電システムを利用した「蓄エネ」、エネルギーを有効活用する「省エネ」までの状況を逐次確認できるのが特徴だ。電力使用量がリアルタイムに分かる最小構成のシステムから導入できるが、太陽光発電システムや蓄電システムとの組み合わせなど、目的によって様々なシステムが利用できる。家電製品によっては、エアコンのオン・オフ、外出先から給湯器を操作してお湯張りをするなど、インターネット経由での遠隔操作も可能だ。

 実際の住宅のHEMS導入状況はどのように進んでいるのだろうか。主に一戸建て注文住宅を手がける積水ハウスと、主に分譲マンションを手がける三井不動産レジデンシャルに話を聞いたところ、同じ住宅でも一戸建てとマンションでは、その特性により、HEMS導入の考え方が異なるようだ。

積水ハウス 環境推進部 温暖化防止研究所 清水務課長
積水ハウス 環境推進部 温暖化防止研究所 清水務課長

 積水ハウス 環境推進部 温暖化防止研究所 課長の清水務さんによると、一戸建て注文住宅ではHEMSの導入がかなり進んでいる。

 「新築住宅の約7割がゼロエネルギー住宅の『グリーンファースト ゼロ』になっています」(清水さん)

 ゼロエネルギー住宅とは「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」のことで、1年間の正味(ネット)の一次エネルギー消費量がゼロ以下になる住宅のことを指す。「正味でゼロ」というのは、消費エネルギーを太陽光発電などによって創出するエネルギーが上回るということだ。

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を実現する仕組み(経済産業省 資源エネルギー庁「日本のエネルギー2014」より)
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を実現する仕組み(経済産業省 資源エネルギー庁「日本のエネルギー2014」より)

 2014年4月に閣議決定された政府の「第4次エネルギー基本計画」では、「2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の実現を目指す」とある。ZEHは高気密・高断熱住宅と省エネ設備機器に加えて、HEMSによってエネルギーを見える化して管理することで実現する。ZEHの実現はHEMSの導入が前提になっているため「HEMSの導入に関しては7割を超えています」(清水さん)という。

 ネット・ゼロ・エネルギーになるということは、売電収入も含めて、大幅に光熱費が下がることを示す。太陽光発電システムや蓄電システムなどは導入コストはかかるものの、維持コストで大きなメリットが得られる。使うエネルギーが小さいため、蓄電池を加えることで災害時などでもエネルギーの「自給自足」に近い生活ができることなどのメリットが施主に評価された結果だろう。

 一方で、マンションではどうか。三井不動産レジデンシャル 市場開発部 商品企画グループ 兼 総務部 環境推進室 主査の町田俊介氏はHEMSの導入状況について「一戸建てに比べるとマンションの導入率は低いと思います」と語る。

三井不動産レジデンシャル 市場開発部 商品企画グループ 兼 総務部 環境推進室 町田俊介主査
三井不動産レジデンシャル 市場開発部 商品企画グループ 兼 総務部 環境推進室 町田俊介主査

 一戸建ての場合、太陽光発電システムによってどれだけ発電した、自宅の家電機器でどれだけ電力を使ったというのが家計にダイレクトに影響する。マンションの場合は太陽光発電システムの設置は共用部が多いため、一戸建てのように各住戸の家計にダイレクトに響くことはない。こうしたことが、HEMSの導入に対する意識の違いにも現れるのだろう。

 ただ、マンションでも導入メリットは大きい。太陽光発電システムがあって蓄電システムがあり、非常用発電機があり、HEMSによって全体的なエネルギーマネジメントができているとなると、こうした設備を備えるマンションを選ぶ価値は高くなる。

 通常時には電気代を節約できる「エコノミー」についてと、非常時には太陽電池からマンションに流したり、蓄電池を使ってエレベーターを動かせる「レジリエント(すぐ立ち直れる、回復力のあるという意味)」について説明すると「HEMSの価値を実感してもらえます」(町田さん)という。