「デブチームを作ろう」と話すと、子どもは喜ぶ

── 話を戻すと、遊び心はどうして大切なんでしょうか?

セルジオ越後 子どもっていうのは、例えばサッカーをしている子どもに誰かが「ウマいなぁ〜!」って言ってあげたら、もう大変(笑)。しかも、さりげなく教えてあげたりすると、急に成長する。

 子どもって、遊び方を大人から教わってないのにドッジボールが大好きで、放っておいてもうまくなるでしょ。それはなぜかというと、遊びのなかで異なる年齢の子が交ざって一緒に遊びながら触れ合うことで、上から下へと遊び方が伝わっていくから。

 さっき、スポーツっていうのはエンジョイするものだって言ったけど、何事に関してもそれが大切。子ども自身が楽しくて喜んで行きたいと思うところでは、子どもは伸びる。でも、行きたくないと思う場所にはいくら通っても伸びないでしょ。だから、何事においても遊び心がくすぐられるものがなければならないっていうことだね。

 例えば、いきなり太ってる子をつかまえて「デブ」って呼んだら、周りの大人はドキっとしちゃうでしょ。でも、僕はいつもサッカー教室で太っちょの子をつかまえて「デブチームでも作ろっか?」って言うのね。すると、太ってる子が「オレも」「オレも」って手を挙げて集まってくるの。コンプレックスを持ってた子どもたちが、プライドを持って集まってくるようになっちゃう(笑)。

 それで盛り上がってくると、今度は面白そうだからと、大して太ってない子どもまでデブチームに入ろうとするわけ。でも、「お前は太ってないからダメだ!」って拒否されちゃうの(笑)。子ども1人だとコンプレックスを抱えていることも、チームにしたら本人たちは面白くなってくるのね。

ブラジル人は楽しんでいるが、日本の子どもは練習をこなすだけ

── 日本ではそういう遊びをやる指導者はいなさそうですね。

セルジオ越後 子どもの野球の指導者をしている友人に聞いたら、野球教室で「今日は何やりたい?」って子どもたちに聞いたことが一度もないって言うのね。子どもたちはホームラン打ちたいと思っているのに、バントの練習ばっかりさせているんだって(笑)。

 サッカー教室でも、子どもたちが何をやりたいのかは関係なくとにかくカリキュラムをこなすだけ。「はい、これやって、これやって」って。すると、子どもたちは練習をこなすのは上手になるけれど、それだけになってしまう。

 ブラジルの子どもたちは違うよ。例えば、試合でフリーキックの場面になったら、必ず3〜4人がボールに寄ってきて「オレが蹴る!」ってケンカになる。でも、日本の子どもたちはボールから離れていっちゃう(笑)。とにかく監督に怒られないために動いている。遊び心のない練習ばっかりしていて、監督が怖いから萎縮しちゃってるのね。

 サッカー教室をやっていると、「そんな遊びばかりやるより、ちゃんとサッカー教えてください」って言われることがよくあったけれども、日本の大人はすべてにおいてせっかちなのね。そんなに何でもかんでも教えようとしなくても、「このサッカー教室はサッカーを好きにさせるためのイベントなんだから」っていつも言ってたよ。

 何をするにしても、最初は好きにさせることが大事なの。サッカー大国のブラジルでも、なかなかサッカーがうまくならない人はたくさんいるけれど、みんなサッカーが大好きで楽しんでいる。それがスポーツとして大事なことなんだよね。