大恐慌後のNYを舞台に、孤児のアニーが持ち前の明るさ、利発さで幸せをつかんでゆくミュージカル『アニー』。春休みに公開された映画リメイク版も話題になった本作ですが、日本では1986年以来、毎年上演され、今年30年目を迎えます。ファミリー層の絶大な支持を得ている『アニー』の魅力とは? そして子どもに『アニー』観劇が及ぼす効果とは? 2001年以降、15年間にわたって日本版を担当しているブロードウェイの演出家ジョエル・ビショッフさんに、ご自身の親子観劇体験を含めてお話をうかがいました。

Annie2014(C)NTV
Annie2014(C)NTV

ミュージカルは“私にも何かできる”という気持ちにさせてくれる芸術

──ジョエルさんはどんなきっかけで『アニー』に関わるようになったのですか?

 ある時、日本の『アニー』の関係者がNYの演出家を探していると聞いて、出かけていったら、以前『マイ・フェア・レディ』の来日公演でお世話になった日本人ゼネラルマネジャーがそこにいらっしゃいまして。その方と知り合いだったこと、僕が『サウンド・オブ・ミュージック』という、子どもがたくさん出てくる作品を既に手掛けていたこと、そして僕自身子ども好きということで選ばれたのだろうと思います。

自身も二児の父であるジョエルさん。子どもが4歳のころから劇場に連れていっているという(写真/松島まり乃)
自身も二児の父であるジョエルさん。子どもが4歳のころから劇場に連れていっているという(写真/松島まり乃)

──『アニー』は1977年にブロードウェイで初演されましたが、これだけ長い間人気を保っている理由はどんなところにあると思いますか?

 誰の心にも響く“普遍性”なのだと思います。アニーは絶望的な環境に置かれているけれど、どんな困難にあってもテーマ曲『トゥモロー』で歌っているように明日を信じ、めげない。そしてある日突然大富豪に出会い、人生が一変します。『ハリー・ポッター』も両親を早くに亡くし、悲惨な幼年期を過ごしているが、突然魔法使いであることに気付く。“希望”のある物語は人の心を打つものなんです。

Annie2014(C)NTV
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──15年間演出されている中で、変えてきている部分、逆に絶対に変えない部分はありますか?

 常にフレッシュで柔軟でありたいと思っています。アンサンブル以外の出演者は頻繁に変わるので、彼らからベストの演技を引き出せるよう、毎回、各キャラクターを新たに造形するようにしています。

 いっぽうで絶対に変えないのは、アニーと大富豪ウォーバックスの関係。アメリカの伝統的なミュージカルは「主人公が女の子に出会う(ボーイ・ミーツ・ガール)」「主人公が女の子に去られる」「主人公が女の子を取り戻す」という構造なのだけど、興味深いことに『アニー』もアニーも主語が「父親と娘」であるというだけで、これを踏襲しているんです。芝居が進行する間、二人の関係性がこの定式のどの地点にあるのか、お客様に明確に把握していただけるよう努めています。