快適過ぎる環境はヒトのサバイバル能力を奪う

 気になるのは、地球環境に特に大きな変化が無いとして、このまま住み続ける私達はどう変わるのか? 真家さんはこの問いに「これからの私達次第です」と答えます。

 「ヒトは生活環境を自分でつくり、コントロールするすべを手にしています。生き物の進化を左右する最大の要因が環境であることからすれば、私達は進化の方向性を自分達で決められるとも言えるのです

 人類は文明化を進めたこの数千年、便利で快適な生活環境を追求し続けてきました。何百万年もはだしだったのに靴を履くようになったことは象徴的ですが、以来、その延長線上に整えてきた生活環境はもはやこれ以上を望めない高みに到達しつつあります。

 何しろ屋内は常に快適な温度に保たれ、水栓を開けばお湯が出ることなど当たり前。100年前なら無理難題でしかなかった「暑さ寒さから解放されたい」という願いが、(先進国の一部の人に限られるにしろ)かなえられる時代になりました。

 めでたいことには違いありませんが、この快適な環境が将来的にヒトの進化を左右する可能性を思うと、少し複雑な気分になります。

 「小さなころからエアコンに頼っていると発汗能力が身に付かず、そのため持久的な運動に耐えられない体になります。冷たい水に手をさらす生活をしている人は、指の温度が下がると血管が開いて体温を上げる機能が働きますが、いつもぬるま湯で手を洗っている人が急に寒い環境に行ったりするとあっけなく凍傷になります。つまり、快適過ぎる環境はヒトの生き延びる能力を奪うのです。どちらも個体レベルの話ですから即進化に結びつくわけではありませんが、長い目で見れば人類の弱体化を招く恐れも否定できません」