前回の記事「進化の不思議 丸い頭と細いアゴがこれからの標準」では、ヒトは今も目に見える形で進化していると知って、ビックリした方も多いことでしょう。次に気になるのは、今後の生活環境の変化が私達人類の体をどう変えるか。「地球を脱出して無重力空間で生活したら?」「クジラやイルカのようにあえて海中生活を選ぶ生き方もあったりして?」
 自然人類学者の大妻女子大学教授・真家和生さんが人類の進化をレクチャー。子どもとお風呂で話すネタにぜひしたい科学読み物シリーズの後編です。

●子どもに伝えるポイント●

●生き物の進化を左右する一番大きな要因は環境だ。生活環境をコントロールできる僕達人類は、自分達の進化の方向を自分達で選んでいるとも言える。
●重力の無い宇宙は地球上とは環境が全然違う。だからヒトがもし仮に宇宙に移り住んだとしたら、今の僕達とは違う新しい人類に進化するかもしれない。
●クジラやイルカはもともと陸で暮らしていた。でも何かの事情で大昔、海に移り住んだんだ。
●お母さんと君、そしてお父さんが家族になったのも、実はヒトの進化の結果なんだ。

 現代人が今まさに体験している短頭化、下アゴの縮小といった進化は、環境とは関係なく一方向に向かう「定向進化」というものであることは前編でお話ししました。

 では自然淘汰説に基づく進化、つまり環境要因が引き起こす進化としては、今後どんなことが起こり得るのでしょう。

 そんな問いかけに、大妻女子大学教授・真家和生さんはユニークな仮説で応じてくれました。それは、いずれ無重力空間に適応した“新人類”が出現するかもしれないということ。今後、地球を脱出する人々の子孫が、ホモ・サピエンスとは違う新しい人類となる可能性があると言います。

 「3~4億年前、住み慣れた海を捨てて初めて陸に上がった魚類の一種、エウステノプテロンは、生物史を切り開いた勇者と言えるでしょう。人類でいえば大航海時代などが好例ですが、未開のフロンティアがそこにあれば切り開かずにはいられないのが生き物の、そしてヒトの性。この先、地球の環境が悪化しようがしまいが、宇宙に飛び出す一群はきっと現れます」

 地球を脱出するとなれば無重力空間、そうでなくても月のような微少重力空間で生活することになる可能性大。地球上を覆う1Gの重力を前提に全身がつくられている私達にとって、無重力空間に移住することは海から陸に上がるのにも匹敵する「環境革命」です。

 重力の影響がいかに大きいかは、たかだか数カ月宇宙ステーションで暮らした宇宙飛行士が、地球に戻ってしばらくは自力で歩けないことからも分かるでしょう。

 「生き物は環境に合わせて進化する過程で、無駄な機能を退化させます。地球上なら重力に抗して立ち、歩くために足が必要ですが、体が浮いたままの無重力空間では何の役にも立ちません。いずれ痕跡だけ残して退化するか、そうでなければ樹上生活時代のようにモノをつかめるような機能を獲得するか? いずれにしても世代を重ねるほど私達の足とはまったく違うものになっていくはずですし、そうした環境に合わせた進化は全身に及ぶでしょう。進化は環境の変化が大きいほど加速しますから、無重力空間への適応は急激に進むはず。場合によっては数十世代で人類の新種が生まれることだってあり得ます