現代人が今まさに体験している短頭化、下アゴの縮小といった進化は、環境とは関係なく一方向に向かう「定向進化」というものであることは前編でお話ししました。
では自然淘汰説に基づく進化、つまり環境要因が引き起こす進化としては、今後どんなことが起こり得るのでしょう。
そんな問いかけに、大妻女子大学教授・真家和生さんはユニークな仮説で応じてくれました。それは、いずれ無重力空間に適応した“新人類”が出現するかもしれないということ。今後、地球を脱出する人々の子孫が、ホモ・サピエンスとは違う新しい人類となる可能性があると言います。
「3~4億年前、住み慣れた海を捨てて初めて陸に上がった魚類の一種、エウステノプテロンは、生物史を切り開いた勇者と言えるでしょう。人類でいえば大航海時代などが好例ですが、未開のフロンティアがそこにあれば切り開かずにはいられないのが生き物の、そしてヒトの性。この先、地球の環境が悪化しようがしまいが、宇宙に飛び出す一群はきっと現れます」
地球を脱出するとなれば無重力空間、そうでなくても月のような微少重力空間で生活することになる可能性大。地球上を覆う1Gの重力を前提に全身がつくられている私達にとって、無重力空間に移住することは海から陸に上がるのにも匹敵する「環境革命」です。
重力の影響がいかに大きいかは、たかだか数カ月宇宙ステーションで暮らした宇宙飛行士が、地球に戻ってしばらくは自力で歩けないことからも分かるでしょう。
「生き物は環境に合わせて進化する過程で、無駄な機能を退化させます。地球上なら重力に抗して立ち、歩くために足が必要ですが、体が浮いたままの無重力空間では何の役にも立ちません。いずれ痕跡だけ残して退化するか、そうでなければ樹上生活時代のようにモノをつかめるような機能を獲得するか? いずれにしても世代を重ねるほど私達の足とはまったく違うものになっていくはずですし、そうした環境に合わせた進化は全身に及ぶでしょう。進化は環境の変化が大きいほど加速しますから、無重力空間への適応は急激に進むはず。場合によっては数十世代で人類の新種が生まれることだってあり得ます」