「未来の人類の生活を想像してください」。そう言われてあなたが思い浮かべる“未来人”の姿形は、たぶん今の私達と変わらないはず。しかし、地球上のすべての生き物は、世代交代を繰り返す中で絶えず進化を重ね、体の形や機能を変えてきました。とすれば人間だってそのうち進化するのでは?……そんな疑問に「もちろん!」と深くうなずくのは、自然人類学が専門の大妻女子大学教授・真家和生さんです。「ヒトの進化は永遠に終わりません。私達の体は今も少しずつ変わり続けているんです」。遠い(あるいはけっこう近い?)将来、人類はどんな進化を遂げるのでしょうか?
 子どもの「なぜ?」に大人も一緒になって知的好奇心を満たせる、科学読み物シリーズ。今回のテーマは「ヒトの進化」です。お風呂にゆったり漬かりながら子どもと話してみてはいかがでしょうか。

●子どもに伝えるポイント●

■トンボだってカエルだって、生き物は進化し続ける。彼らと同じ生き物だから僕達も進化し続けるんだ。
■生き物は生き残るために環境に合わせて体を変える。それが進化の基本だよ。
■意味不明の進化もある。役に立たないのにマンモスの牙がどんどん大きくなったことがいい例だね。
■現代人の頭は真ん丸く、アゴは小さくなる一方だ。君達の子どもはもっとそうなっていくよ。
■歯が減ったり歯並びが悪くなったり……いいことばかりが進化じゃない。

永遠に「未完成」。ヒトの進化は終わらない

 今のところ最古の人類とされているのは、約700万年前のサヘラントロプス・チャデンシス。彼らから始まった命の連鎖が、私達ホモ・サピエンスに至ったのは、数え切れない進化のたまものに他なりません。

 「中でも『ヒトらしさ』を決定づけたという意味で重要なのは、足の劇的な進化と、それにより直立二足歩行が可能になったことです」

 大妻女子大学教授・真家和生さんがそう話す通り、人類が文明化という生き方を見出したことと直立二足歩行とは深く関わります

 サヘラントロプス・チャデンシスの歩行スキルはごく素朴なものでした。一応「直立」して歩いたと考えられますが、当時の彼らは生活の場をそれまでの樹上から地上に移したばかり。そのため足のつくりも歩く姿も、今のゴリラやチンパンジーとさほど変わらなかったようです。

 その後、足の構造的・機能的進化とともに直立二足歩行をヒトがマスターしたのは、ほぼ400万年前のこと。結果として人類が獲得した最大の果実は、並外れて大きな脳でした。

 前かがみ状態のまま頭を重くしたら、首に過度の負担を強いることになります。しかし、直立して下から支えればかなりの重みに耐えられるため、脳の容積を大きく増やすことができました。加えて、それまでは歩くのに使っていた両手を自由に使えるようになったことも大事なポイント。かくして人類は、文明を育てるに足る知力と技術力を手にしたのです。

 「人類は生き物として完成したも同然。これ以上進化する必要は無い」……なんて思っている人もいるかも。しかし、それは大間違いです。

 真家さんは「ヒトの進化が止まることはありません」と断言します。

 「地球上の生き物はすべて、ほぼ40億年にわたる進化の延長線上に生きています。ヒトも同じ生き物であって、決して特別な存在ではありません。『完成する』などということはなく、必要があろうが無かろうが進化し続けるのです」