ヒトの頭は球形に、下アゴは小さくとがる方向へ

 ヒトの進化を展望する前に、「進化」という言葉の意味を正しく理解しておきましょう。

 まず確認しておきたいのは、進化とは世代を超えた形や機能の「変化」のことであって、必ずしもポジティブな概念ではないことです。機能が向上しても低下しても、数が増えても減っても、サイズが大きくなっても小さくなっても、すべて進化

 「退化」という言葉は進化とは逆の意味のように思われていますが、実は退化も進化の一部です。例えば、ヒトの足の指は樹上生活時代(サヘラントロプス・チャデンシス以前。足で木の枝をつかめたころ)と比べると機能が大きく低下していますが、生物学の世界ではこれを「退化的に進化した」と表現したりします。

 進化をめぐってはこのように誤解が少なくありません。「ヒトが進化するなんて何十万年も先の話でしょ」と考えがちなのもその一つ。しかし真家さんによると、ほんの数世代で確認できる「小進化」も少なくないそうです。

 「例えば、頭が球形に近づく『短頭化』が進んできたこと。頭を上から見たとき、以前なら頭の前後のサイズのほうが左右より長いのが普通でしたが、その差がどんどん縮小しているのです。同時に下アゴが目立って小さくなっています。食生活の変化でかむ回数が減ったせいだと言われますが、それは誤り。短頭化もそうですが、1万年ほど前から続く遺伝子レベルの変化です。ともに理由も無く一方向への変化が進む“定向進化”と考えられます