男性は育児にどう関わればいいのか?

中岡さん:正直、母乳で育てている期間は特に、「男性ができることって、ないんじゃないか?」と思ってしまいがちなんです。あやそうとして抱くと泣かれるし、「じゃあ、お皿でも洗っていようか……」となって(笑)。パパにできることって、そのくらいしかないように感じてしまう時期があるんですよね。でもやっぱり、パパがいっしょにいるだけで、近くにいて話し相手になるだけでも、ママの孤独感は薄れていくんだと思います。世の中の男性が、せめてもう少し早く帰宅できればいいんですけどね。

安田:同じ男性として、パパが家に帰れない現状をどう思いますか?

中岡さん:帰れるはずなんです、本当は。でも、もしどうやっても帰れないのなら、会社を辞めるのも選択肢のひとつだと思います。僕は会社と家庭の両立ができないと思ったので、「会社を辞めて自分のやり方で働く」という選択をしました。もし、両立の難しさを感じる男性がいたら、これからの働き方を考えることも大切かなと思います。

境さん:あともうひとつ、私の経験としてあるのが……妻が小一時間ほど出かけるために、私が赤ちゃんとふたりで留守番する日があったんです。それまで私なりに、赤ちゃんのあやし方をわかっていたつもりだったんですが、その日はなぜか、なにをやっても泣きやみませんでした。もう、ずーっと泣きつづけて。最初は、ゆとりのある気持ちであやしていたんですが、あるレベルを超えると、すごくいらだってしまって。

 「なんでこんなにやってるのに、泣きやまんのだ? 俺の愛がわからんのか? あれもこれも試して全部やっているのに……」と、赤ちゃんを壁にたたきつけたい気持ちになった。もちろん、行動にうつしたわけではなかったけれど、「こんなに愛している赤ちゃんを、壁に叩きつけたい気持ちに一瞬でもなるなんて……いかんいかん!」と我に返ったことがあります。

境さん:なので、虐待のニュースを見るたびに、あのときの気持ちを思い出すんです。「あるんだよ。そういう気持ちに、なってしまうこともあるんだよ……」と。でも、虐待の報道がされるとき、「旦那はどうしていたのか?」ということには、誰も触れないんですよね。父親の責任は問わないで、「まったく、今どきの若い母親は……」なんてコメンテーターが言っているのを見ると、「あなた、赤ちゃんを泣きやませたこと、ありますか?」と聞きたくなる。今の日本の社会に大きく欠けているところだと思いますね。

安田:子育てって、自分でも知らなかった感情がムクムクと湧き上がってきて……怒りや、ともすれば凶暴な感情に向き合う瞬間の連続でもありますよね。

中岡さん:そのリミッターがはずれてしまいそうになったときに、誰でもいいと思うんです、いっしょにそばにいる人がいれば。

安田:ネットやSNSを使ってつながることも、大きいなと感じます。ママたちは、スマホを使いこなしていますから。

境さん:よいママになったほうがいいんだろうけれども、なろうと思い過ぎないほうがいいですよね。人間なんだから、ママだって欠点もあって当たり前なんだし。

安田:現在52歳、子育てに一段落された境さんから、現在子育て真っ最中のパパになにかメッセージはありますか?

境さん:奥さんの話を聞く。これがパパのいちばん大切な仕事だと思っています。そしてパパも、自分の話をする。お互い、そんなにちゃんと聞いてなくてもいいんですよ(笑)。お互いに「大変だったね」と、話を聞く姿勢を示すこと。子育てだけでなく、すべてをひっくるめたうえで、いちばん大事なことだと思います。

【取材後記】
 赤ちゃんにきびしい国、日本。核家族化が進み、ママ・パパが抱える子育ての孤独、閉塞感は増しています。産後うつや、わが子の虐待にもつながりかねない、大きな社会問題となっていますが、これらを打開するには、やはり「共にいて、話をする」ことに尽きるのではと、おふたりのお話をうかがって感じました。

 では、核家族化が進み、長時間労働で帰ってこない旦那を待つしかない現状を、どう変えていけばよいのでしょうか? 少子化をも乗り越えて、赤ちゃんにやさしい社会をつくるにはどうすればよいのでしょうか?

 この本の中で境さんは、「経済成長を最優先するために、人びとが会社に従属することを前提としていた昭和のシステムから脱却し、“子育て村”という、育児を中心にしたコミュニティを作り、制度化することが必要では?」と提示しています。

 「17万いいね!」がついた、その重みをしっかり受けとめながら、「これから、何を中心に据えて生きていくのか?」を今一度考え、子どもたちの未来の子育てがHAPPYであるように、発信していこうとあらためて思いました。

境 治(さかい・おさむ)
コピーライター、メディアコンサルタント。1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現・I&S BBDO)に入社、コピーライターになる。その後、フリーランスとなったあと、株式会社ロボット、株式会社ビデオプロモーションに勤務。2013年より再びフリーランスに。公式HP:http://sakaiosamu.com/
その他の著書に『テレビは生き残れるのか』(ディスカヴァー携書、2011年)。三輪舎HP:http://3rinsha.co.jp