日本人だって「自分で変化を起こしてきた」歴史がある

 3月22日のプレイベントでは、コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンを立ち上げた鎌田華乃子さんが、こんなエピソードを紹介しました。

 「日本人は自分で変化を起こさない、と一般的には思われていますが、実は、すごい歴史があります。例えば、一揆は非常に有効でよく考えられたコミュニティ・オーガナイジングの仕組みです。首謀者が分からないように、賛同者の名前を円形に書いたり、首謀者がつかまっても運動を途絶えさせない工夫があったのです」

 日本で会社員を経験した後、渡米。ハーバード大学大学院でコミュニティ・オーガナイジングの権威からその手法を学んだ鎌田さん。おっとりした話しぶりや、日本の歴史やご自身のおばあさまの生き方から学んだという姿勢が印象的です。お話を聞いているうちに「何となく、私にもできそうな気持ち」になってきます。

 コミュニティ・オーガナイジングを活用して社会を変えた事例は、世界各地にあるそうです。中でもセルビアで行われた育児休業中の給付金に関する事例は、印象深く、またDUAL読者の関心も高いと感じられました。

 鎌田さんによると、セルビアには、育児休業中に給付金を支払う制度はあったようですが、実際にはきちんと機能しておらず、女性達は借金して出産費用などをまかない、困窮していたとか。そんな中、ある女性が起こした運動が国全体を巻き込んでいきました。一つ、象徴的なのは、道端に物干しロープを張って、ベビー服を大量に吊り下げたこと。このアピールは、一目で分かる“赤ちゃん問題”として、国民の心をつかみました。

マタハラNet代表の小酒部さんは、自ら受けたマタハラを社会問題に発展させた

 自分が提起したい問題を、分かりやすい形にまとめて絞り込み、広く世に訴える……。こうしたやり方は、多くの人を巻き込み、問題を可視化するのに有効です。この日、会場には、マタハラNet代表の小酒部(おさかべ)さやかさんの姿もありました。小酒部さんは先日、米国務省から「国際勇気ある女性賞」を受賞したばかりです。通常、開発途上国で女性の権利などを訴える人が受けてきた賞で、日本人女性が受けたのは初めてでした。

 小酒部さんは、自身が妊娠中に受けた嫌がらせを「社会問題」として社会に訴えると共に、日本の働き方を変えるべきだと主張しています。Change.orgで署名を集め、マタハラ防止の一文を女性活躍推進法案に盛り込んでほしい、というロビイングも行いました。

 残念なことに、今の日本社会ではこのような当たり前の主張を認めたくない人も少なくないようです。実名と顔を出してマタハラ問題を訴える小酒部さんやマタハラNetに寄せられた誹謗中傷メールの一部を見せてもらったことがありますが、本当に「情けない」の一言に尽きます。日本はかたちの上では先進国ですが、まだ、個人が本当の意味で自由を獲得してはいないのだなと感じ、悲しくなりました。

 5月から数回の週末を使って行われる「Changemakers Academy」は、まさに、こういう状況を「変えたい」と願う人達に、そのための手法を伝えるための場です。コミュニティ・オーガナイジングの手法、ソーシャル署名サイトの使い方、そしてメディアに社会問題を提起するときのやり方など。「ハイテクを活用した“無血革命”のやり方を指南する学校だ」と、私個人は解釈しています。私事ではありますが、私もこのプログラムに大変共感し、コーチ&アドバイザーとして参画させていただくことになっています。

マイクを握っているのがChange.orgでマタハラ問題を提起した、マタハラNet代表の小酒部さやかさん。米国務省から表彰されたときの様子を話してくださいました
マイクを握っているのがChange.orgでマタハラ問題を提起した、マタハラNet代表の小酒部さやかさん。米国務省から表彰されたときの様子を話してくださいました