統計データを使って、子育てや教育にまつわる「DUALな疑問」に答える本連載。今回は「家庭環境と非行」について取り上げます。 

 統計で見ると、母子家庭や父子家庭では、両親がいる家庭よりも子どもが非行に走る確率が高くなっています。ですがこれは、日本の一人親世帯の「貧困率」が著しく高いことによる問題が大きいのではないでしょうか。

 こんにちは。武蔵野大学講師の舞田敏彦です。神奈川県川崎市で中1生徒が殺害される事件が起き、非行問題への関心が高まっています。非行(delinquency)とは、未成年者による法の侵犯行為の総称です。「わが子が非行に走りはしないか」。思春期の子がいる親御さんは、常に気をもんでおられることでしょう。

 前置きなしに本題に入りますが、非行は家庭環境と密接に関連しているといわれます。血縁に由来する第1次集団としての家庭は、子どもの人格形成に強い影響力を持つからです。

 家庭環境といってもさまざまな側面がありますが、第7回の記事「家族の親密さ、養育態度と子どもの非行の関係は?」では、保護者の養育態度に焦点を当てました。そこで分かったのは、凶悪犯の少年には放任的な養育態度の親が多く、溺愛された少年は性犯罪に傾きやすい、という傾向です。

 今回は、それよりも前段に位置する、家庭の構造面の要因に注目したいと思います。具体的には、親の有無によって非行の確率がどれほど異なるかを明らかにします。

母子家庭と父子家庭を比べてみると……

「また身も蓋もないことを…」と思われるかもしれませんが、当局もこの問題には関心を持っているようで、警察庁の犯罪統計では、両親の状態別に非行少年の数が集計されています。ちょっと古いですが、2010年のデータは以下の通りです。刑法犯で検挙・補導された非行少年の数であり、14歳未満の触法少年も含みます。

 両親ありの世帯 …… 6万5791人
 母子世帯(父なし) …… 2万9843人
 父子世帯(母なし) …… 6893人

 両親ありの者が最も多いですが、少年全体でみても両親ありの世帯で暮らしている者が大半ですので、当然といえばそうです。それぞれの世帯類型から非行少年が出る確率を出すには、ベース人口で割った出現率を計算する必要があります。私は、2010年の「国勢調査」の原統計にあたって、割り算の分母に充てる数値を採取しました。上記の3タイプの世帯に属する10代少年人口です。それでは、計算の結果をみていただきましょう。

 非行少年の出現率は、両親ありの世帯では1000人あたり7.9人ですが、母子世帯では20.8人、父子世帯では39.4人です。分子が延べ数であることに注意が要りますが、非行少年が出る確率を大雑把に見積もると、両親ありの世帯では127人に1人ですが、母子世帯では48人に1人、父子世帯では25人に1人となります。一人親世帯にあっては、無視できる確率ではありません。

 上表の右欄には、両親ありの世帯の出現率を1.0とした倍率を掲げています。これによると、母子世帯からは通常の2.6倍、父子世帯からは約5倍の確率で非行少年が出ていることがわかります。