「豊かさの中の貧困」に陥ってしまう

 それと言わずもがな、一人親世帯にあっては、貧困という問題が横たわっています。新聞などで昨年、「平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす18歳未満の子どもの割合を示す『子どもの貧困率』は2012年で16.3%と過去最悪を更新、国際的にみても高い水準」などと報じられましたが、一人親世帯に限ると値はグンと跳ね上がります。図2は、子どもの貧困率の国際比較図です。年収が中央値の半分に満たない世帯で暮らしている18歳未満の子どもが、全体の何%いるかです。

 2010年時点でわが国の子どもの貧困率は、両親ありの世帯では12.7%ですが、一人親世帯では50.8%と半分以上にもなります。後者は世界でトップであり、一人親世帯の貧困化が最も著しい社会であるようです。

 むろんこれは、一国の内部の相対的貧困率であり、衣食住にも事欠くような絶対的な貧困状態にある世帯はごくわずかでしょう。しかし、周囲と比べた「相対的な貧困」が子どもの自我を傷つけることは多々あります。思春期にもなれば、やれケータイだとかスマホだとか、仲間との交際にもカネがかかるようになり、それが叶わないとつまはじきにされる。そのことで子どもが味わう疎外感は、小さなものではありますまい。「豊かさの中の貧困」という状況は重いのです。

 最初のページの表1によると、一人親世帯に属する10代人口はおよそ161万人であり、全体の13.4%に相当します。子どもの7人に1人が一人親世帯で暮らしているわけで、決して少数派ではありません。といっても、標準家族を前提としてさまざまな制度が組み立てられているわが国にあっては、この層は現実には大きな困難に遭遇することになります。

社会全体で子どもを育てることはできるか?

 そこで公による支援が求められるわけですが、それは経済面に留まるべきではなく、子どもの生活全般にわたる目配りをも含むべきでしょう。ただでさえ忙しい保護者や教師だけの手に負えることではありませんが、そうした仕事を担うサポート資源は存在します。たとえば、スクールソーシャルワーカー(SSW)です。川崎の事件の被害生徒は不登校状態にあり、母親も仕事に忙しく当人の生活状況を把握できなかったそうですが、このような子どもに直に働きかける役割を担う専門職です。

 これから先、退職高齢者のように、生活の多くを自地域で過ごす「地域密着人口」が増えてきます。その中には、子どもの教育や心理について専門的な知識を持つ人材もいることから、上記のような外部専門職のなり手としても期待できます。不遜な言い方かもしれませんが、この「資源」を活用しない手はありません。よくいわれる「社会全体で子どもを育てる」の具体的な姿は、こういうことではないかと思います。それはまた、読者の皆さんのような共働き夫婦(デュアラー)が増えることの条件にもなるでしょう。

 話が大きくなりましたが、「家庭環境と非行」という古くて新しい問題はこうした視野で捉えるべき問題であって、「一人親世帯の親の監督不行届、しつけ不足」というような、個々の家庭の問題に矮小化されてはならないことは確かです。

 今回はこのあたりで。次回は、首都圏(1都3県)の市区町村別の年収地図をご覧に入れようと思います。「お金持ちの地域はどこか」という関心もありますが、各地域の年収水準が子どもの育ちとどう相関しているかも明らかにするつもりです。