子育て中の共働き世代にとって、自分の家の近所に住む人達と仲良くしておくことは何かと都合がよい。同じ年ごろの子どもをもつ親同士なら、子育ての悩みなどを相談し合えるだろう。東日本大震災のときのように親が勤務中で家にいない時間帯に災害があった場合も、近所にいる大人が子ども達の面倒を見てくれれば心強い。「一つの町」とも言われるマンションで今、そんなコミュニティーの在り方を見直す動きが広がっている。

マンション・コミュニティーの有用性とは?

 昨年の11月、東京日本橋の三井ホールには平日の夜にもかかわらず、大勢の男女が集まっていた。なかには日経DUALの読者と同じ共働き夫婦ではとおぼしき姿も少なくない。「マンション・コミュニティーという視点からマンションの未来を語る」と銘打たれたシンポジウムが、サスティナブル・コミュニティ研究会の主催で開かれたのだ。

 セッションではまず、都市問題に取り組む建築家の藤村龍至さんが、コミュニティー活動が活発なマンションの事例を紹介した。例えば板橋区のサンシティは竣工から40年以上が経つ総戸数1872戸の大規模マンションだが、今も居住者によるサークル活動が盛んだという。藤村さんは「敷地の中央に近隣住民にも開放された広場があることが、コミュニティーの形成に役立ったのではないか」と話す。

建築家の藤村龍至さんは板橋区のサンシティの事例などについて話した
建築家の藤村龍至さんは板橋区のサンシティの事例などについて話した

 新しい事例として、江東区で2014年に竣工した43階建てのパークタワー東雲も取り上げられた。ラウンジやドッグランなどの共用スペースが6階ごとに設置され、1階には茶室もあるマンションだ。これらのスペースで居住者はヨガやパーティーなどを思い思いに楽しんでいるという。

セッションには三井不動産レジデンシャルの藤林清隆社長も登壇した
セッションには三井不動産レジデンシャルの藤林清隆社長も登壇した

 セッションに登壇した三井不動産レジデンシャルの藤林清隆社長が、サンシティで良好なコミュニティーが形成された理由について、「経年優化のコンセプトに基づき、カルチャーハウスなど居住者が集まれる仕掛けを用意したことが役に立ったのではないか」と分析。同じく三井不動産レジデンシャルサービスの岩田龍郎社長(当時)は「マンションには色々な価値観の人が住んでいるが、特に東日本大震災以降はコミュニティーが安心感を生み、資産価値の向上にもつながることが理解されるようになった」と、近年のコミュニティー重視の流れの背景について語った。

 チャイルドボディセラピストの蛯原英里さん、チームラボ代表の猪子寿之さん、issue+design代表の筧裕介さんによるフリートークも行われた。出産を経験した蛯原さんが「既に出来上がったコミュニティーに後から入るのは難しい面がある」と話すと、筧さんは「自宅で誕生パーティーなどを開くときに、隣の住戸のドアノブに『ご迷惑おかけしますカード』を掛けるとコミュニケーションが取りやすくなる」と、隣人と交流するアイデアを披露した。

 また猪子さんは「今の時代はネットワークが進歩しており、マンションなど特定の場所からコミュニティーを形成しようと考える必要があるのか」と、マンションでのコミュニティーの在り方に疑問を投げかけた。「昔は地域という集団によって子どもが育てられていた。今なら『子どもが生まれたらあそこに住もう』というように、コミュニティーに合わせたマンションを開発することで、場所とコミュニティーが再び重なるのでは」と言う。

蝦原英里さん、チームラボ代表の猪子寿之さんらも登壇して、コミュニティーについてのフリートーク
蝦原英里さん、チームラボ代表の猪子寿之さんらも登壇して、コミュニティーについてのフリートーク