栗原 母は僕が料理を作ると「こんなに上手にできるのね」と喜んでくれました。でも、父は違いました。ほとんど褒められたことを覚えてないくらい。
DUAL ええ、それは意外ですね。栗原さんのお料理に限って。
父に鍛えられたから、今がある
栗原 僕は料理にかかる手間が苦にならないタイプで、例えば、長く塩漬けして待つというような手順を、子どもだと待てなかったりするじゃないですか。それが、僕は全くいやじゃなかったんです。だから「まめだし、根気強いから料理に向いているわよ」と母からは言われていたんですよ。
そんなこともあって、僕がまだ料理の世界に進もうと考えてもいなかった高校生のとき、どうやら母が父に「心平は将来、料理の仕事に就くかもしれないから、今から鍛えておいたほうがいい」というような話をしたようで。
その日を境にして、父の注文が猛烈に厳しくなりました。例えば、炒め物一つとっても「コクがない」「味が薄い」という感想だけでなく、「人に食べさせる料理じゃない」と食べてくれないこともありました。もうコテンパンに言われてましたよ。
DUAL それは手厳しい。もっとうまくなってほしい、という親心でしょうか。
栗原 それよりも、自分がおいしいものを食べたいというのがあったんじゃないかな(笑)。でもね、ほんのたまになんですが「これは、まあいいな」と言ってくれることがある。そうすると、モチベーションになりますよね。そのへんのコントロールがとてもうまかったなと思いますよ。
母がよく「料理家として今の自分があるのは、料理の出来にとても厳しかった主人の存在があったから」と言っているのですが、僕もやっぱり父に鍛えられたから、今があるのかもしれません。そういう意味では、父に感謝していますね。
——次回に続きます。
(文/宇治有美子)