メーン料理のほかに少なくとも3種類の常備菜

DUAL そこから腕を磨いてきたわけですね。ところで、栗原さんが小さいころから、お母さんは仕事で忙しくしていたのですね。

栗原 父は一時、家で執筆活動をしていた時期が数年ありましたが、母は僕が2~3歳のときにはすでにテレビの料理番組の仕事を始めていましたから、家にいないことも多かったです。

 でも、母は地方に出張するときなどは必ず電話をくれましたし、不思議なことに寂しかったという記憶が僕にはないんですよ。

 僕がまだ小さいころは、近所の知り合いに時々、姉と僕を預ける日もありましたが、たいていは夕飯の用意をしてから出かけて行っていました。母が作る夕食はメーン料理のほかに、いつも少なくとも3種類の常備菜がありました。僕達はご飯を炊いたり、たまに味噌汁を作ったりするだけでよかった。子ども達がしっかりと満足できる食事を、忙しいながらも用意してくれていたんです

DUAL なかなかできることではありませんね。

栗原 僕の持論は「衣食住の中で最も大切なのは食」で、どんなにいい服を着て、立派な家に住んでいたとしても、食べ物に対して丁寧に向き合っていないと、人は精神的に安定できないと思っているんです。

 振り返ってみれば、そんな価値観は「食」に決して手を抜かない両親から教わったことでした。父も母もずっと仕事をしていましたが、僕達は食生活の面で十分満ち足りていたからか、両親から愛情をかけてもらっている安心感は常にありました

母である栗原はるみさんと
母である栗原はるみさんと

 母は、『ごちそうさまが、ききたくて。』(栗原はるみさんが家族のために考案した料理を紹介したレシピ本。食器や家族への思いも盛り込まれている)のままの生活をしてきた人。あるとき母が「家族が今、幸せじゃなかったら、自分が今までやってきたことの意味が全くない」と言ったことがありました。

 僕は親になって余計に、その言葉の意味が分かるような気がします。今は休みの日は特に料理を作って家族3人で食卓を囲むようにしています。