大学院時代に産んだ一人娘は、生後3週間目からキャンパス・デビュー

 「長い会議や泥臭い人間関係はご勘弁だけど、私は大学が大好き。キャンパスライフが気に入ってるわ」と目を輝かすクリスさん。教えるということが楽しくて、性に合っている職をやっと見つけることができたようです。

 また、ご自身がPhDの大学院生のときに生まれた一人娘は、生後3週間目からキャンパスライフになじませたとか。「家でずっといると私が退屈してしまうので」と、授業や自分のオフィスにベビーを連れていき、ベビーとともにPhD(博士号)を取得しました。

 教授に就任したときには、お譲さんを大学の色々なイベントに連れていくようになり、中高校生ぐらいに成長すると学会にも同行させるように。お嬢さんは“nerd clothes”(オタクっぽいファッション)で学会の会場に現れ、参加者とも人懐っこく話をしては場を明るくしたことも。大勢の人々を引き寄せる魅力はお母さん譲りのようです。

 幼いときからキャンパスライフになじんだお嬢さん。今年は大学卒業のはずですが、「私は仕事をしない!」と宣言しているとクリスさんは嘆いています。でも、親の目はどこかうれしそうでした。

 ご自身の仕事の場を通じてお子さんとの関係も両立できたことは、クリスさんにとって「最高の楽しみと喜びの源泉」だったとのこと。素晴らしいですね。親が仕事で楽しんでいる姿を直接見ることができるのは、子どもにとっても最高の体験になるでしょう。

 私も息子達を色々な仕事の場に連れていき、一緒に楽しみたいという気持ちはありますが、「最近の彼らは部活中心の生活になっているので親とは付き合ってくれません…」なんていう言い訳をしてしまいそう。でも、これからはもっと、子ども達に自分の仕事の世界の楽しみを体験させることに努めたいと気持ちを改めました。

仕事の楽しみは自己実現。たった一度の人生、もっと楽しさを求めてほしい

 さて、教育者としての楽しさの源は「若者達の成長に良い影響を与えること」だとクリスさんは語ります。過去の卒業生達から連絡が入り、彼ら彼女達の社会における活躍の様子を聞けることで、その一日がパッと明るくなるようです。

 教育者に限らず、誰でも仕事を通じて自己実現を達成し、自分の成長を感じられるときがあると思います。確かに、そういうときの仕事はすごく楽しいものです。楽しさは伝播しますので、他人が楽しそうにしていれば、自分も楽しくなります。同じように、自分も楽しければ、相手も楽しくなるはずです。

 ただ、「働く」ということを「自分の苦労と時間との引き換えにお金(給料)をもらうこと」。そう思っている残念な人々が現在の日本社会では少なくありません。本来であれば、“傍(はた)を楽(らく)にすること”が、働く(はたらく)ことではないでしょうか。私達は、それぞれの立場において「楽しさ」を職場に取り戻さなければなりません。

 若者達には、安定性を確保することだけに満足するのではなく、「たった一度しかない人生で、楽しさをもっともっと求めることにチャレンジしてほしい」。このような願いが、クリスさんの言葉の行間から読み取れます。

 「人は楽しく遊んでいるときには、間違えることを恐れない」
 「人間は機械じゃない。機械って楽しむことができないじゃない」

 確かに、そうですね。お行儀よく、受け身でコトを待っているだけでは楽しくありません。若者達が能動的に行動することによって、自分自身の可能性のスイッチをオンにすることが大事であり、これは、親として自分の子ども達の成長の過程でも最も期待していることであります。