特集「MBAに挑戦するワーママが増えている理由」第5回です。経営学の修士課程、専門職学位課程を修了することで与えられる学位、「MBA」。一昔前は企業から送り出されて、あるいは休職・退職して海外に留学し、取得するのが一般的でした。しかし、ここ10年ほどで国内大学院にも経営学専攻のコースが設立され、働きながら平日夕方や土日に通学し、MBAを取得できる環境が整ってきています。近年は女性の受講生も増加。その中には、仕事と育児を両立しながら、また、育児休暇期間を利用して通学しているワーママ受講生もいます。大学院の現場と、ワーママ受講生の声から浮かび上がる現状をまとめた特集「MBAに挑戦するワーママが増えている理由」。

独立系M&Aアドバイザリーファーム・GCAサヴィアン株式会社でディレクターを務める阿部美紀子さん(41歳)。10年前、第1子の育児休暇中&第2子の妊娠中に一橋大学大学院に通学し、MBAを取得しました。MBAを目指した理由、育休期間中の学業について紹介した前回に続き、今回は在学中の転職、仕事・育児・学習を同時にこなした時期について伺います。

大学院で刺激を受け、新たな分野へのチャレンジを決意

阿部美紀子さん(以下、写真はすべて一橋大学大学院 国際企業戦略研究科、金融戦略・経営財務コースの校舎内で撮影)
阿部美紀子さん(以下、写真はすべて一橋大学大学院 国際企業戦略研究科、金融戦略・経営財務コースの校舎内で撮影)

 不動産鑑定・評価を手掛ける財団法人に勤務していた阿部さん。J-REIT(不動産投資信託)の誕生を機に、金融を学ぶため、一橋大学大学院に入学しました。そこでMBAカリキュラムを学ぶうちに、新たな意欲が湧いてきたといいます。

 「大学院の学友達は金融業界の様々な分野で働いていて、彼らとのディスカッションを通じて多様な考え方を知りました。また、授業では企業の経営陣やベンチャー企業の社長を招き、経営理論をどのように実践に活かしているかの話を聞く機会もありました。そうした刺激を受け続け、視野が広がっていく中で、より直接的に経済と関わる仕事をしてみたいと思うようになったんです

 そんな思いを相談したのが、当時授業を受けていた佐山展生教授だった。佐山教授は他のパートナーと一緒にM&Aアドバイザリーファームを立ち上げたばかり。その事業と阿部さんがやりたいことが一致し、「うちに来たら?」と誘われたのです。

 「子育てのことだけを考えれば、慣れた職場、慣れた環境で仕事をこなしていくほうが楽だったかもしれません。一方、不動産評価の経験も多少活かせるとはいえ、30歳という年齢で一から新しい経験を積ませてもらえるなんてとてもありがたいこと。自分の10年後、20年後を考えたときに、『やってみたい』という気持ちを抑えきれませんでした」

 阿部さんは、育休が終わるタイミングで勤務先に退職意思を伝えました。

 当時の上司は「学びを通して広い世界を見ているのだから、そう言われるのではないかと思っていた。やりたいことをやるのがいい」と理解を示し、背中を押してくれたといいます。阿部さんは、会社から支給を受けていた留学費用を返還し、退職することを決めました。