「どっちが好き?」という質問が判断力を磨く
自己報酬神経群をしっかり働かせるには、物事に取り組む際に、決断や実行を速くし、一気に駆け上がることが必要。一気にやらないと、途中で「本当にこれでいいのか」「失敗するかもしれない」というような脳にマイナスの思考が入りこんでしまう。
一般に、コツコツ取り組むことはいいこととされ、もちろん大事なことでもあるのだが、育脳の段階では目標を持ったら一気に駆け上がらせた方がいい。宿題は一気に済ませるなどの全力投球の姿勢は、脳のパフォーマンスを高めることにも繋がる。
脳の自己保存本能が過剰に働くと、自分が傷ついたり、他人から責められるのを防ぎたい思いが強くなる。すると、自分の失敗やミスが認められなくなってしまう。しかし脳は、「いつまでに」「何を」「どのように」するかを決めなければ頑張ることはできない。つまり自分に足りないものは何かを認識し、克服する課題を整理しなければならない。
大人が子どもをしっかり褒める一方で、できないことにも目を向けさせて課題を整理し、克服できるように導く。ただしこの場合、否定語は使わない言葉がけが必要だ。
社会のなかで活躍し、充実した人生を送るには、人の心を理解し、心を通わせ合う必要がある。子どもの頃に他人の脳と「同期発火」させる脳を育てる。それには人を尊敬する心を幼い頃から育てること。もし親が誰かを否定する言葉を吐くと、子どももその人を尊敬しなくなる。親ができるだけ、他人の優れているところに目を向け、「素敵だね」「カッコイイね」と言うと、子どもにも人を尊敬する力が養われる。
脳の前頭前野は、統一・一貫性の本能を基盤にして「判断・理解」という機能を担う部分。脳に入った情報をバーコード化し、新たな情報を重ね合わせることで、微妙な差異を見分けている。
この差異を見分ける機能は、人間に高度な判断力をもたらすだけでなく、緻密な思考を可能にしている。このトレーニングには、幼い頃から「このライオンとあのライオンはどっちが強い? それはなぜ?」「この花とその花ではどっちが好き? なぜそう思ったの?」というような質問を投げかけると、子どもは微妙な差異に注意を向け、緻密な思考を身に付けられる。
以上の10項目だ。自分の子育てに、どのくらい当てはまっただろうか?
ここでヤマハ音楽教室の話に戻そう。実は、これらの育脳のノウハウは、幼児科のレッスンで行われていることと非常に近い。
たとえば、(3)の反復練習や(10)の類似問題は、ヤマハの講師が常に子どもたちに行い、問いかけている部分。(6)の「ワクワク感」は、60分のレッスン時間で講師たちが子どもを飽きさせないように常に工夫している点だ。(9)も「グループレッスン」や「親同伴」で、他の人との同期発火が培われている。
育脳の(1)から(10)までを、親だけで実践するのはかなり難しい。ヤマハのメソッドは、もともとは音感を養い音楽を楽しむ心を養うために開発されたものだが、脳の発達のプロセスからも効果的だ、と林氏は認める。脳科学の見地からは「育脳のメソッド」であり、ヤマハ音楽教室での講師と子どもたちのやりとりは「心」を育んでいることになる。
(文/佐藤央明)