共働き世帯にとって保育園や学童の運営など、子育て支援を担う自治体は頼りになる存在であってほしいもの。このたび日経DUALでは、読者に代わって、自治体の首長への突撃インタビューを開始しました。最初は東京23区に取材を依頼し、区長に質問をぶつけます。

今回は荒川区。生まれも育ちも荒川区で、都議会議員16年、国会議員10年4カ月の後に区長に就任して10年を迎えた西川太一郎区長。「区長の役目は方向性を示すこと。後は現場のプロに任せる」という考えの持ち主です。保育では実質待機児童0人、小学校の学童保育でも待機児童0人を実現しました。「保育園を考える親の会」が調査した自治体の中で、2014年4月の入園決定率が最も高かった区です。教育についての考え方、区民ニーズを探る世論調査、区政について伺います。

西川 太一郎 区長

1942年、荒川区生まれ。大学卒業後、東京都議会議員4期16年、衆議院議員3期10年4カ月を務め、この間、防衛政務次官、教育改革国民会議国会議員代表、経済産業大臣政務官、経済産業副大臣を歴任。2004年には荒川区長初当選、現在3期目。2011年に特別区長会会長に就任し、現在2期目。2013年には「住民の幸福実感向上を目指す基礎自治体連合」(通称:幸せリーグ)会長に就任。

徹底的な世論調査で、区民の声を拾い上げるシステムを作っている

西川太一郎・荒川区長
西川太一郎・荒川区長

DUAL編集部 他区の区長さんの中には、乳幼児の間は家庭での保育を推奨すると明言されている方もいます。つまり、0歳児保育を区の認可保育園では行っていないのです。

西川区長(以下、敬称略) それも一つの考え方でしょう。親とのスキンシップを重視するということですね。私が言いたいのは、子どもを預けて外で働く・働かないにかかわらず、「家庭教育はしっかりやってください」ということです。「親になるには、それなりの準備が必要でしょう」、と。

 家族の方針で子どもを育て、そのうえで、スタンダードな教育は保育園や幼稚園、学校などにお願いする、という姿勢でいてほしいのです。「家庭教育」「社会教育」「学校教育」。この三位一体で、初めて子どもの教育が可能になります。どんなに小さな子どもでも、それは変わりません。

 また、私が区長として大切にしているのは、区民が必要としていることを吸い上げ、「格差・不平等・貧困の連鎖」を無くしていくこと。地方行政の基本はそこにあると思っています。例えば今、アベノミクスで「経済政策をこうしよう」というのは大方針です。その大方針を、こなれたものにしていく、かゆい所に手が届くようにするのが地方行政です。

区民ニーズを吸い上げるために、世論調査を重視

―― 具体的にはどうやって区民のニーズを吸い上げているのでしょう?

西川 荒川区では、世論調査に重きを置いています。本来は調査部を設けてまで行いたいところですが、現在は総務企画部をはじめとした部署が兼任で行っています。研究者に依頼して設問を作り、分析も科学的に行っています。我々が考えていることが調査によって裏付けられることもある一方で、全く新しい発見もあります。

 世論調査での区民からの要望を受けて、2014年からは病児保育を実施しています。「子どもに対するネグレクトなどの問題にもっと取り組んでほしい」という要望や、「都との共同でもいいので、児童相談所の仕組みをもっとフレキシブルにしてほしい」、という声まで様々です。こうした声は都や国にも上げて、問題提起をしています。詳細なデータがあってこそ、説得力があり提案もできるのです。

 といっても、世論調査になじまないものについては、現場で試行錯誤するしかありません。例えば、荒川区の死因の中で、かつては8位だった「自殺」が、5位にまで上がったことがありました。これを受けて、自殺防止活動をしているNPOの指導で、自殺しようと悩んでいる人に気づき、声を掛けて話を聞き、必要な支援につなげていく「ゲートキーパー方式」という方法を取り入れました。今ではこれが効果を上げています。

 それから女子栄養大学の協力で、生活習慣病やメタボを防ぐ、栄養バランスのいい“満点メニュー”を、町の飲食店ごとに設けています。さらに、高齢者向けには、転倒を防ぐ体操を専門家に考案してもらいました。こうした取り組みで、平均寿命も少しずつ改善しています。