人には必ずいいところがある、と教えてきた

―― そうやって育ったひろ美さんも、お子さんを育てながら仕事をなさっていますよね。働く母親として娘に伝えたいことはありましたか。

小林 真摯に働く母の後ろ姿を見せることで、ある種の尊敬の念を抱いてくれたのかなと思います。母親が、どんなに具合が悪くてもはってでも仕事に行く姿を間近で見て、「自分にはできないけれど、すごいな」と感じでいたようです。「親の言うようにはならないけど、親のするようになる」というのはその通りだと思います。親が言ったからって子どもがやるとは限らない。子どもには子どもなりの「芯」があって、一方的な押し付けに対して、反発する心が生まれますから。

 色々な人の手を借りてひろ美を育てました。一人ひとり違う価値観で接するから、娘も小さいなりに自分で判断するようになる。自分が正しいと信じる「芯」を持っていましたね。

―― これだけは守ってほしい、という娘に対する希望はありましたか?

小林 ただ一つ厳しく言っていたのは「言いつけなし」ということ。娘が人の悪口を言ってきたら、「何かその子のいいところはないの?」と尋ねていました

 人には必ずいいところがあって、それを見つけましょうという教育はしました。プラスの視点を持つことが、幸せな人生の基盤だと考えていましたから。私のほうも、子どもがどんなに小さくても、ネガティブな言葉は使わないように心がけていました。

娘が頼もしいビジネスのパートナーに

―― 1991年、ひろ美さんと共に「美・ファイン研究所」(東京都渋谷区)を設立されていますね。母娘で一つのプロジェクトに取り組めるというのは、とても幸せなことのように感じます。

小林 私がコーセーの役員を辞めて、娘と一緒に始めたのが美・ファイン研究所です。ひろ美は私の姿を見て育ち、メークアップアーティストが大変なのは知っていたから、「絶対にならないぞ」と強く思っていたそうです。その一方で、メークアップの周辺には興味があって、スキンケアやフレグランス、ファッションとかが、大好きだった。そうした志向が時代とも一致して、うまくいきましたね。

 美・ファイン研究所では、メークを通して心も身体もハッピーにするというコンセプトの「ハッピーメイク」を提唱しています。この言葉に即座に反応してきた層がありました。今、更年期を迎えていたり、子どもを育て上げたりした世代の女性達ですね。夫や子どものために仕事を辞めてしまった人ばかり。子育てが終わって、自分の存在理由が分からなくなってしまう。そこで美容に救いを求めてくるのです。ハッピーメイクと出合い、幸せを取り戻していくわけですが、彼女達を見て、夢や目標があるなら、やっぱり仕事は続けたほうがいいと実感しましたね。

 コーセー時代も商品開発に携わってきましたが、そうした経験から得た理論を生かした商品を作ろうと思い立ちました。ひろ美は化粧品で遊んで育ったようなものですから、私以上に化粧品が好きで、とても頼もしいパートナーとなりました。そのなかからヒット商品も生まれましたね。

 先日、ショップチャンネルに出演し私たちのメーク用品を販売した際は、24時間で1億9500万円ほど売り上げました。その日一日のために作った限定商品を24時間以内に売り切る、というテレビショッピングの企画です。ライブで計4時間くらい出演して、実演をします。

美・ファイン研究所で、自ら開発した化粧品について、海外留学生に説明する小林さん
美・ファイン研究所で、自ら開発した化粧品について、海外留学生に説明する小林さん