相手を立てつつ動かす、“第3の女”を目指せ
―― そうすると「警戒される女」になるわけですか。
小林 警戒される女のほうが、まだいい。最初は警戒されても、持っているものが本物ならいつか認めてもらえる。とはいっても、私みたいに“ヒッピーばばあ”とか言われないように、男の人をちょっと立てることも大切かな(笑)。
私が30代に戻れるなら、かつての直球のやり方は取りませんね。第1でも第2でもない、“第3の女”になろうとするでしょう。相手のいいところを見つけ、まずはほっとさせる。それから意見を主張すると思います。
―― 取締役に就任なさったとき、周囲の女性はどういう反応でしたか?
小林 私が取締役に就いて唯一がっかりしたのは、それまで慕ってくれていた女性社員達から、何となく距離を取られ始めたこと。もともと「取締役なんて戸締り役だ」とばかにしていたくらい役職には興味が無く、「辞退しよう」と思っていました。けれど、女性が4000人いる会社で、私がこの役を受けたら、同僚やもっと若い人達にとってどんなに励みになるだろうと考え、お受けしました。でも結果的に、距離を感じることになってしまいました。「小林さんは男の世界に行っちゃったんだわ」と。すごく寂しかったですね。
組織内での「女性の結束力の弱さ」に寂しい思いも
小林 美容指導員のときも、研究員のときも、美容部長でも、何をしていても現場の熱気に触れていたのが、美容研究所以外の組織人達からは最敬礼される世界に変わってしまった。あちらも寂しいんでしょうが、私はもっと寂しい。こっちが近づいても、向こうが離れてしまう。それが女性の結束力の弱さかな。今、組織で働いている女の人には同僚の女性の昇進をもっと喜んで、「次は私よ」と思えるようになってほしいですね。
結果的に私は、企業の一員として33年間を過ごしました。それは「自分のやりたいこと」と「企業の求めること」「消費者が喜んでくれること」が一致したからです。そのなかで、演劇のメークアップという夢もかなえることができました。
激務ではありましたが、決して滅私奉公ではなく、「私」をないがしろにしたことはありません。目標を失わず、自分の芯を持ち続けてきたのです。
* 最終回 「小林照子 『仕事を辞めろ』の夫が180度変わった」へ
(取材・文/井伊あかり、撮影/蔵真墨、編集協力/Integra Software Services)