“ゲンカイナダの男達”とのせめぎ合い

小林 一方、私は男性研究者を「ゲンカイナダの男」と呼んでいました。いっつも「限界なんだ」って言ってるから(笑)。「こういう保湿成分をもっとたくさん入れて」と提案しても、「4%が限界なんだ」とね。私が帰ったら、「あのヒッピーばばあがまた……」って、みんな面白がっていたようです。

 美容液を開発しているとき、皮膚感覚を重視してくれと頼み、30種類くらいの材料をそれぞれ小瓶に入れて、社員の女性達に目隠しをして「自分が気持ちいいと思う成分」を選んでもらったのです。そしたら1位から3位まで全部保湿剤だった。研究者が頭で考えたものは皆無で、それまで隠し味程度にしか使われていなかった保湿剤が上位を占めたので、研究者もびっくりしたみたい。

 当時、国内に51の営業所があって、51人の美容主任がいました。彼女達みんなにその成分を使って作った試作品を試してもらったら、全員がファンになってくれたのです。子育て中だったり介護していたり忙しい女性達ばかりで、そういう販売現場のトップがいいと言っているわけだから、発売したら売れるに決まっている。でも、本社の男性陣は及び腰なのです。「過去に例が無い。データが無い」と言って、経験が無いことに対してものすごくおびえる。何でも過去の延長線上でしか未来を考えられなかったんですね。

 私は前例にこだわらずに、「自分がいいと思うもの」や「女性達が『こんなのを待っていた』と喜んでくれるもの」を世に出したかった。こうして半ば社内の反対を押し切る形で、美容液が発売されました。商品名は「アルファードRCリキッドプレシャス」。1975年のことです。5000円と、当時としてはかなりの高価格であったにもかかわらず、文字通り飛ぶように売れました。

男性に甘やかされているだけではそこ止まり

―― その後さらに実績を積み、50歳のときに、コーセーで初の女性取締役に就任されます。男性社会で成功するコミュニケーション術とは?

小林 男性は男性社会で生きるすべを先輩から教わります。そんな男性社会に入った女性は2種類に分かれます。「男性から甘やかされた女性」か、「『あいつは何か持っているぞ』と警戒される女性」。甘やかされたまま調子に乗っていたら、そこ止まりです。調子良く、気分も良くいられますけれど、常に男性の下にいなくちゃいけない。

 でも、もし仕事に対して強い思いを持っているのであれば、甘やかしてくれる男性を利用しないことです。「こいつは何か持ってるぞ」ということをどこかで匂わせないといけない。