上への文句、当時は直球勝負だったけれど

―― ちょうど30代に入って、公私の両面で転換期を迎えたわけですね。美容研究室を任されるという大抜てきをもたらした、「上への上手な文句の言い方」をぜひ伝授してください!

小林 当時は直球でやっていました。上司も「むかつく!」と思っていたでしょうね(笑)。今だったらもう少しうまくやっていたと思います。

 ただ、当時から、文句を言うだけではなく、必ず代案は出すようにしていました。「何これー」と言いながらも、「他社の○○という製品をもっと香りよく、もっと手触りが滑らかになるようにして」といった注文を出すわけです。ボロクソに言うのですが、それで終わらせない。「こうすればいい商品になるのに」というアイデアを出す。けなしつつも、ちょっとだけいいところを見つけて褒めるんですよ。そうすると相手は、私をぎゃふんと言わせるようなものを作ってやろうと思って帰っていくんです(笑)。

 私は平気でズバズバ言うから、もっと口がうまくて気分が良くなることを言ってくれる女性社員のほうが男性社員にはかわいがられていました。でも新ポストには、私が選ばれたのです。「美容研究って、何をするんですか?」と聞いたら、「お前は文句ばかり言っていただろ。だったら自分で売れるモノを作れ」と。

「一瞬できれいになる化粧品」を届けたい

―― 会社は「売れるモノ」を作れと言ったんですね。

小林 私は、私が欲しいものを作り、それが結果的に売れました。「私が欲しいもの」とは、すなわち、忙しく働く女性が欲しいものだったからです。

 たった一人の美容研究室員という責務に加え、1年後には美容部長を兼任することになりました。美容研究員という研究職と、美容部長という華やかな世界の二足のわらじ。普段ははいずり回って仕事をしながら、美容部長として華やかな場にも出ていく。きれいにして優雅なふりして。でも実際は、子どもまで抱えて、大わらわなわけです。だからこそ、美容液を思い付いたのです。だからこそ、パウダーファンデーションを発想し、開発したのです。

 私の場合、働く女性に「一瞬できれいになる化粧品」を届けたい、そうすればどんなに喜んでくれるだろう、という一心でした。その一つが美容液。一瞬でぱっと肌がきれいになる。そして、リキッドをつけてパウダーはたいてまた直して、といった作業を1回でできるのがパウダーファンデーションです。

 当時は毎日が綱渡りでしたが、母親として髪を振り乱している自分と、優雅で美しい美容部長を務めなくてはいけない自分と、2つの世界があったからよかったんだと思います。