「誰も何もしてくれない」ではなく「私達には何ができるか」

 「赤ちゃんにきびしい国」を批判するだけでなく、子育ての面白さや、個人ができることを丁寧に紹介していくスタイルで、読むごとに「これなら、なんとかなるんじゃないか」と思えてくるから不思議です。「赤ちゃんが増えない」というのはいわゆる「少子化問題」ですが、境さんが描くのはあくまで、ひらがな中心で表せる、地に足の着いた世界。「誰も何もしてくれない」ではなく「私達には何ができるか」を考えさせてくれます。私はそこにとても希望を感じるのです。

 「取材するときは、ポジティブな題材を探すようにしました。それから、話すように書くように気を付けています。目の前に人がいて話をする、と考えると、漢字をあまり続けないとか、語尾を柔らかくしてみようとか、誤解されない表現にするにはどうしたらいいだろうかと、自然と考えることができるんです」

 コピーライターは伝えることのプロ中のプロです。『赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない。』というタイトルは刺激的でありながら、誰にでもその意味が伝わります。そうして問題提起をしておいて、具体的な解決策をなるべく前向きに出していく。読者の皆さんが、子育てについて誰かに何かを書いて伝えたいと思ったとき、そして、多くの人に分かってほしいと思うとき、この境さんのプロの技に倣ってみるとよさそうです。

 「最初にハフィントンポストに書いたのは『子育ては社会でやりましょう』ということ。それを読んで、そういう活動をしている方がメールをくれたので、会いに行って現場を見せていただきました。やっぱりこの本は僕が書いたというより、皆さんの声に押されて出来上がった感じです」