唯一無二の存在を失ったとたん、私達は無力感に襲われ、哀しみの淵に立つ
哀しみ。それは、「何か大切なものが失われた」と私達が感じたときに込み上がってくる感情です。
人にとって「大切なもの」とは色々とありますが、その共通点とは「可能性」かもしれません。これまでの思い出は失われるものではありません。しかし、男女の関係であろうが、親子の関係であろうが、これからの可能性が閉ざされ、二度と取り戻すことができないものを失ったとたん、私達は無力感に襲われ、哀しみの淵に立たされます。
そして、人間は感情が移る生き物です。他人の哀しみは自分の哀しみにもなります。その哀しみという魔物に心身が捕らわれると、「動けなくなる」というのが普通の人の反応です。よって、「哀しい状態は他人事」だと心のバリアーを張る、あるいは見えないふりをする人々が世の中では多いのです。
私だって、そうです。哀しい状況に出合ってしまったときは、そこを素通りして、なるべく早く意識から消そうとする自分がいることは否定できません。
しかし、逆に哀しみを直視し、これからの可能性のために自ら動く人達もいます。今回のお話相手でもある認定NPO法人「かものはしプロジェクト」共同代表の村田早耶香さんは、そのお一人です。
東京、丸の内の中核にあるビルのお洒落なカフェ。そこの窓際のテーブルで村田さんにお話をお伺いしました。落ち着いた、しっかりとした口調で話す村田さんが見てきた世界。それは、カフェの大きな窓から見える近代的なオフィスビルに囲まれる街並みとは程遠いところでした。
村田さんは大学2年生のときに受けた授業で衝撃を受けます。タイで家族の生活のために売春宿に売られ、エイズにかかって亡くなった、12歳の女の子の哀しい話を聞いたのです。「自分の自由」、そして「人生のすべてを奪われた」少女の対価として家族が手にしたのは、たったの1万円程度。
特定NPO法人「かものはしプロジェクト」共同代表、村田早耶香さん