子どもの売買の「供給」を減らすため、「需要」の抑制から手を付けた

 女の子達を売買から守るという実績をつくってからカンボジア政府と交渉を開始し、法の整備および取り締まりの強化に働きかけました。「需要」が抑制されれば、「供給」のニーズも減少するからです。村田さん達のご活動の成果もあり、約10年の年月を経た現在では、被害者数が激減したと推計されているようです。

 ある16歳の女の子は小学校にも行けず、村田さんが初めて知り合ったときには服を2着しか持っていなかったと言います。仕事の現場に入ってきたときは、おどおどした必死な表情で、給料が月払いか週払いかを心配そうに聞いてきたそうです。

 ところが、その後、女の子は後に新しい服も買えるようになりました。表情も自信に満ち、笑顔が増えました。自分の未来の可能性が広がったという実感があるのでしょう。

 今、村田さんは、問題の規模がカンボジアと比べて更に大きく、複雑な様相を呈しているインドでの活動を開始しています。カーストという社会制度があります。そして、州によって法体制が異なるため、被害者と加害者が州の境をまたがると、裁判ではなかなか有罪になりにくい現状があります。村田さんのチャレンジは続きます。

 2~3年ほど前まで、村田さんは「可哀想な」現状に陥っている子ども達を助けてあげようという気持ちで自分自身の生活を犠牲にし、ときにはご自身の身に危険を感じるような修羅場にも踏み込んだこともあったと振り返ります。

 でも、現在、村田さんが感じているのは、「色んなことを前向きに捉えよう」とする「自らの成長」だそうです。「今自分が歩んでいる道は、自分が進んで選んだ道であり、それをやらせてもらっている」という感謝の気持ち。どんなに哀しい現状に直面しても、へこたれない村田さんの信念の原動力は、ここにありそうです。

 私を含め、自分が選んだ道なのに、歩きながらブツブツと文句を言ったり、置かれた状況を嘆くことが少なくないですよね。でも、私達日本人は多くの場合「自分の道」を選べるわけです。「それをやらせてもらっていることに、もっと感謝すべきだ」。そんなことを村田さんに教えていただきました。

 昨年、結婚された村田さん。「何か変わったことはありましたか?」とお伺いしたら、ちょっと間を置いてから「安心してチャレンジできるようになりました」という、何とも心がほっこりするお答えが戻ってきました。自分が選んだ良きパートナーは本当に大切な存在ですね。特に哀しい現状に直面したときは。

 インタビューを終えるころには窓の外は日が暮れて、店内も次第に暗くなっていました。しかし、テーブルを挟んで目の前に座っている村田さんが、ほんわりと温かいロウソクの灯りように見えたのは、私の目の錯覚だったのでしょうか。

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