「見る」「聴く」「つなぐ」の3ステップを身に付ける

 「この動画が、『子どものためのPFA』の行動原則を表しています。これはWHO版PFAを子ども用にしたものです。これからPFAの3つのステップを説明します」

ステップ1【「見る」=LOOK】

まず支援者は、周囲をよく見渡し、その場所が子どもにとっても支援者側にとっても安全な場所であるかを確認しなければいけません。また、明らかに緊急支援を必要としている子どもがいないかもチェックします。例えば避難所でなら、ずっと泣いているのに大人が誰からもフォローされていない子、知り合いの大人がそばにいない子、明らかに乱暴な行動を取っている子などを探すのです。深刻なストレスを抱えている大人や養育者が、その子の周りに存在していないかどうかも確認します。

 では、目の前にいる子どもが「緊急支援が必要な状態」であるかどうかは、どう判断すればいいのでしょう?

 ストレスを抱えた子どもが一般的に示す反応は、子どもの認知発達段階によって異なってきます。例えば、4~6歳の場合。「緊急時の重大さは理解できない」「人の死に関心を示すが、死んでしまった人がもう戻ってこないということは理解できない(しおれた花に水をやれば戻るように、亡くなった人も生き返るかもしれないと思っていることもある)」「『僕が悪い子だから地震が起きてしまった』といった、原因と結果の辻つまの合わない思考“マジカルシンキング”が残っている」などといった特徴があります。

 そんな4~6歳のストレス時に見られる反応は「大人にくっついて離れない」「幼い行動に戻る」「すぐ混乱するようになる」「集中力が無くなる」「避難所で大人と一緒に物資を取りに行く、遊ばなくなるなど、大人の役割を引き受けようとする」などが挙げられます。

 こうした反応が出る子と出ない子がいますが、出たとしても一般的には自然なことと考えられ、「親や養育者との再会」「基本的なニーズが満たされる」「危険な状態から抜け出し、安全を感じる」、そして「子どものためのPFAを用いた支援を受ける」ことで、子ども自身の持っている力で回復していくと考えられます。つまり、これらの反応は自然なので、それほど心配しなくてもいいとも言えるのです。

 それが知識として分かっていれば、それ以上の極端な行動を取る「緊急支援が必要な子」が探しやすくなります。強いストレスを感じている子は、専門的な支援を受けられるようにつなぐ必要があります。

ステップ2【「聴く」=LISTEN】

動画を見て指摘した人が多かったように、目の高さを合わせて子どもの目線で子どもに接することも大切です。動画に出てくる女性スタッフは、まず自己紹介から始めました。そうしたうえで質問をし、子どもがどんな状態かを把握していくのです。

 強いストレス下にある子どもには質問しても、こちらが聞きたい答えはすぐには返ってこないことが多いといいます。特にストレスを抱えている子どもから、支援に必要な情報を聞き取るのはかなり難しい作業です。動画でも、支援者が質問した後に女の子は、かなり興奮した状態で言葉をまくしたてていました。

 そんなときは、子どもの呼吸を整える、支援者が落ち着いた声で話すなど、子どもが落ち着くように誘導しながら話を聞いていきます。

 支援者がメモを取るために下を向いてしまうことについては、子どもに「自分の話に集中していないのでは?」と思わせてしまうのではないか、という疑問があるかもしれません。確かにメモを取るのに集中し過ぎて話を聞かないのは問題ですが、メモを取る行為が、子どもを落ち着かせることができる場合もあるのです。

ステップ3【「つなぐ」=LINK】

「子どものためのPFA」は、専門家でなくても行えるものです。このように、子どもやその保護者・養育者の様子を把握し、さらなる支援が必要な場合は、現場にいる専門家などに適切に「つなぐ」ことが必要になります。自分で抱え込まずプロへの橋渡しをする。ここが最も大切です。

 動画で見た環境は、子どもにとって安全と思われる場所ではありませんでした。そこで支援者は支援者用テントという、より安全な場所に子ども達をつなぎました。そのうえで、飲み物、食べ物は大丈夫か、という次の支援のステップに入っていきます。

 「子どものためのPFA」の仕組みはこの3ステップで、とてもシンプルです。次回はこの3ステップをロールプレイングで体験した様子を紹介します。大きなストレスにさらされる子ども達を落ち着かせ、支援をしていくためのノウハウをさらに具体的に説明していきます。

この記事の関連URL
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン http://www.savechildren.or.jp/

(ライター/阿部祐子、撮影/鈴木愛子)